ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

髙木ミエ先生を偲ぶ結晶構造因子の位相のとびによる動力学的効果であることを高橋研氏が解明しています.その他,チオ尿素の相転移やチタン酸バリウム(BaTiO 3)の分極反転をX線トポグラフィーをベースに学生とともに研究を進められました.私もその1人で,BaTiO 3の180゜分域壁中の歪と表面層に関して,先生が退官された後,学位をいただいております.また,強誘電体のみならず,人工水晶の転位の研究や,将来のシンクロトロン放射光利用を目指したImage Intensifierを用いたその場観察用のX線カメラの開発を進められました.また,シンクロトロン放射光の前段階として当時実用化されてきつつありました回転対陰極型X線源の開発も進められています.髙木先生は,新しい試みとして磁性流体を利用した真空封止回転導入を回転対陰極型X線源に導入されました.そのような開発要素はすべてが製品化されているわけではないですが,現在でも技術要素として利用されているものが多くあり,先生の着眼性の高さに敬服する次第です.1979年に退官された後は,東京家政学院大学で,その後10年間,一般教養の理科教育を担当され,学生の教育を行うと同時に,東京工業大学での残されていたお仕事をまとめておられました.以上が先生の足跡をたどったご経歴です.先生はご自身でも,「あまり歯に衣を着せずに思うことを申してまいりました」と書かれておられますが,研究室でも非常に明快に研究の核心部を指摘・助言され,いったん,実験結果のディスカッションが始まると朝から晩まで時間を忘れて議論して下さいました.同時に非常に快活で先生の周りにはいつも笑い声が絶えませんでした.よく口にされていたのが,「マツタケの人工栽培ができれば大金持ちになれるわよ」「私はリタイアしたらトライしてみようかしら」とおっしゃっていたのを懐かしく思い出します.また,髙木先生の研究室は電子顕微鏡の本庄五郎先生の研究室と一体で活動しており,研究室コロキュウムや雑誌会を合同で行っておりましたので,大所帯で非常に活気がある研究室でした.新年会は本庄先生のお宅で,夏のバーベキューは髙木先生のお宅で行われ,また春に山中湖周辺でテニス合宿をするのが恒例行事でした.また,先生の御葬儀のときに東京家政学院大学の副学長の方が弔問に来られましたが,副学長の方はご自身が東京家政学院大学の教員になったときに,髙木先生にお世話になったとおっしゃっておられたとのことをお聞きし,髙木先生が教育者としてしっかりと東京家政学院大学にも足跡を残されていたことを知り,末席の弟子として嬉しく思った次第です.この一文で紹介させていただきましたように,先生は常にパイオニアを目指して研究されて来られ,本当に数々の研究者としての心得を私どもに教えて下さいました.ここに謹んで私たちを研究者に導いて下さいました髙木ミエ先生のご冥福をお祈り申し上げます.(高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所河田洋)日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)319