ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

日本結晶学会誌59,318-319(2017)髙木ミエ先生を偲ぶ髙木ミエ先生は2017年8月15日に享年98歳で逝去されました.2017年3月上旬にお嬢様である川合眞紀先生にお会いした際に,「髙木先生はお元気ですか?」とお伺いしたところ,「とても元気よ」とおっしゃっておられ安心していました.ところが,次に川合先生に4月頭にお会いしたときに,「母が末期の膵臓がんに侵されていることがわかった」とのことをお聞きし,その後病院で療養されておられましたが,8月15日にご逝去されたとのご連絡をいただきました.東京工業大学での髙木研究室における最後の弟子という立場で,先生の追悼文を書かせていただきます.以下,先生の経歴を紹介いたしますが,これは先生が東京工業大学をご退官されるときの退官記念講演「電子線とX線と私」の資料から抜粋させていただきました.髙木先生は1940年3月に東京女子高等師範学校を卒業された後,1年間福岡県立若松高等女学校で理科の教員をされ,1941年4月から大阪大学の菊池正士先生の下で聴講生をされました.この大阪大学での菊池先生との出会いが,電子線回折によるブラッグ反射や菊池線の美しさに魅了され,この研究を続ける動機となったことが述べられています.その後,1943年12月に三宅静雄先生がおられた小林理学研究所に移られました.ここでは,上田良二先生や三宅先生の下で製作・改良された逐次蒸着装置を導入した電子回折装置を用いて,金属単結晶蒸着膜の上に別の金属を蒸着し,その結晶成長の様子を電子線回折で測定され,それが髙木先生のはじめて世に出された論文です.1949年4月に三宅先生が東京工業大学に移られるときに一緒に助手として着任されました.東京工業大学では低融点金属蒸着薄膜の固液相転移を電子回折実験の結果,蒸着膜の融点は膜厚が小さいほど低いという現象を実験的に見出し,その現象は,蒸着膜が核成長しておりその蒸着粒子の表面エネルギーを考慮すると説明することができることを示されました.その内容を中心に大阪大学で学位を取得されておられます.また,その後のダイヤモンド構造の禁制反射222の電子回折強度のお仕事も結晶学の立場から重要なものです.1961年に助教授になられた後,イギリスのブリストル大学に留学されました.ここでA. R. Lang先生の下,X線トポグラフの弟子入りをされました.そこで,ダイヤモンド結晶中の窒素不純物を起源とするX線散漫散退官記念講演会の「電子線とX線と私」から転載乱強度や紫外・赤外吸収強度変化をトポグラフィックに議論するため,ダイヤモンド結晶からの通常のX線トポグラフだけではなく,X線散漫散乱トポグラフ,紫外吸収像,光学複屈折像を系統的に測定して窒素含有量,結晶成長との関係を論ずるお仕事をまとめられました.帰国された後は,上記のようにX線トポグラフィーを用いた物性研究に応用する仕事を展開されておられます.X線トポグラフ装置をX線源からトポグラフカメラに至るまで,島津製作所の協力もいただき,先生は完成させられました.X線トポグラフィーは結晶中の歪場を見る装置ですので,その情報を物性研究に導入する研究対象として,分極反転中に原子や分子の位置を変える強誘電体が良いと考え,一連の強誘電体の研究を進められました.当時東工大の物理教室には,強誘電体研究を物性測定の手法で中心的に展開されていた沢田研究室があり,試料作成やこの分野の研究動向の議論を行うことができるといった好条件があったようです.また,助教授になられて,数多くの大学院の学生の協力のもと進められました.まず,皮切りに亜硝酸ナトリウム(NaNO 2)の分極反転によって生じる分域壁構造は,NO 2分子がc軸の周りに60゜程度回転している準安定な結晶構造をもっていることを鈴木茂雄氏(当時大学院生,後の髙木研究室の助手)が解明しています.硫酸グリシン(TGS)のX線トポグラフで観察される180゜分域壁コントラストの起源は,NaNO 2のような準安定な分域壁構造というよりも,318日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)