ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

単結晶中性子回折による地球深部含水鉱物の結晶構造解析きた反射の数は100 Kにおいて10,795個,295 Kにおいて7,193個であった.得られた反射強度のデータセットから,まずは空間群Immaの禁制反射の中性子強度がすべてバックグラウンドレベル内にあることを再度確認した.次にGSASプログラム25)を用いて構造を解析した.水素を除く原子座標の初期配置は,重水化wadsleyiteの13粉末中性子回折の結果)から得た.水素の原子座標の初期配置は,後に述べる差フーリエマップの結果から取得した.消衰効果の記述にはsecondary type I Lorentzianspread extinction modelを使用した. 19),26)すべてのイオン種の原子変位パラメータに異方性を仮定した.構造精密化では,各イオンの占有率への条件付けや制約はまったく行っていない.得られたRw(F)は,100 Kと295 Kのどちらの解析結果においても4.4%と,充分に低い値であっ図1 SNSのTOPAZ回折計への試料の設置の様子.(TOPAZ diffractometer at SNS.)矢印が試料単結晶の位置.た.得られた原子変位パラメータは100 Kのほうが有意に小さい(表1a,b).原子の熱振動は温度が下がるほど減少するので,中性子の散乱長の空間的な分布も低温では集中的になる.そのためにバックグラウンドノイズの影響を受けにくくなるので,低温での解析の結果は常温よりもさらに正確になる.軽水素原子は散乱長の空間的な分布の拡がりがもともと大きく,散乱長の絶対値も小さいので,このような温度の影響が,ほかの原子と比べても特に大きい.温度100 Kにおける構造解析によって得られた水素の結合距離や占有率の定量性は,従来になく優れたものになったと考えられる.3.結果と議論含水wadsleyiteの解析結果を示す前に,空間群Immaの無水のwadsleyite(β-Mg 2SiO 4)の結晶構造の概略を紹介する(図2a).WadsleyiteのMg 2+は三種類の八面体サイト(M1~M3)を占有しており,いずれの八面体サイトも等しく6個のO2-で囲まれている.Si 4+は一種類の四面体サイトを占有しており,それは4個のO2-で囲まれている.O2-のサイトは四種類あり(O1~O4),周囲の陽イオンの幾何学的配置がそれぞれ異なっている.特にO1サイトはSi 4+とまったく隣接しておらず,隣接する陽イオンはMg 2+だけである.その他のO2~O4サイトは1つまたは2つのSi 4+と隣接する.単結晶中性子回折による含水wadsleyiteの構造解析の結果を表1に示す.表1aが100 K,表1bが295 Kの測定温度において精密化された構造パラメータである.後に詳しく示すように,反射強度データセットとして使表1(a)温度100Kでの含水wadsleyiteの構造解析結果,(b)温度295Kでの含水wadsleyiteの構造解析結果.((a)structure parameters of hydrous wadsleyite at 100 K,(b)structure parameters of hydrous wadsleyite at 295 K.)*U ijは異方性原子変位パラメータ(単位A 2)(a)Atomx/ay/bz/cOccupancyU 11×10 2*U 22×10 2*U 33×10 2*U 12×10 2*U 13×10 2*U 23×10 2*Mg10001.001(2)0.764(12)0.451(8)0.942(10)000.146(7)Mg201/40.97043(4)0.996(2)0.581(1)0.393(7)0.408(7)000Mg31/40.12444(2)1/40.895(1)0.451(7)0.831(7)0.492(6)0-0.018(6)0Si00.12039(2)0.61624(3)0.999(1)0.375(7)0.354(6)0.368(6)00-0.011(5)O101/40.22166(4)10.416(9)0.641(8)0.708(8)000O201/40.71653(3)10.591(9)0.444(7)0.404(7)000O300.98829(2)0.25585(3)10.591(7)0.547(5)0.463(5)000.049(4)O40.26055(3)0.12332(1)0.99392(2)10.452(4)0.495(3)0.509(4)-0.012(4)0.031(3)0.001(3)H0.0949(1)0.2882(4)0.3086(6)0.105(2)4.00(26)3.42(20)2.87(19)-0.92(17)-0.42(20)-0.79(15)(b)Atomx/ay/bz/cOccupancyU 11×10 2*U 22×10 2*U 33×10 2*U 12×10 2*U 13×10 2*U 23×10 2*Mg10001.000(2)0.983(15)0.598(10)1.186(13)000.111(8)Mg201/40.97011(5)0.997(2)0.802(13)0.540(9)0.612(10)000Mg31/40.12437(3)1/40.898(1)0.598(9)1.030(8)0.724(8)0-0.058(7)0Si100.12042(3)0.61613(4)1.001(2)0.503(8)0.478(7)0.494(8)00-0.015(6)O101/40.22140(5)10.538(11)0.807(9)0.900(11)000O201/40.71627(4)10.824(11)0.550(8)0.548(9)000O300.98818(2)0.25595(3)10.742(8)0.712(6)0.627(7)000.093(5)O40.26076(3)0.12330(2)0.99382(2)10.583(5)0.653(4)0.699(5)-0.014(5)0.067(4)-0.003(3)H0.0933(2)0.2873(5)0.3076(8)0.081(2)3.42(32)2.56(20)2.04(23)-0.73(19)-0.13(22)-0.58(18)日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)311