ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

超高圧中性子回折装置PLANETで何ができるか?図16SiO 2ガラスの中性子構造因子の圧力変化.(Pressuredependence of neutron structure factor S(Q)of SiO 2glass.)図17 RMC法によりX線および中性子構造因子から導いた5.4 GPa,670℃におけるSiO 2ガラスの三次八面体サイトから四面体サイトへの熱励起であると解釈できた.この結果は,各種鉄鋼材料の高品質化・高強度化に向けた研究開発や,地球内部の核に存在する水素の研究に役立つと期待されている.3.3 非晶質固体の構造解析:SiO 2ガラスの永久高密度化のメカ二ズム14)石英ガラスはSiO 4四面体を構成ユニットとした非晶質固体である.四面体が互いに頂点共有して多員環(中距離秩序)を作っているため構造中に隙間が多く,加圧により顕著な密度の増加が見られる.また緩和が遅いため,常温下で約12 GPa以上に加圧すると高密度のまま常圧に回収される(永久高密度化).永久高密度化は,高温下で促進され,最大で約20%の密度の増加が報告されている.これまで,その微視的機構に関していろいろ調べられてきたが,いまだよくわかっていない.これを明らかにするには,通常の散乱実験で得られるような原子間の距離の情報だけでなく,Si,Oを区別した角度相関や連結性の情報が必要となる.これを調べるためには単一の散乱実験では不十分で,散乱能の異なる2種の線源を用いて得られたデータを組み合わせることが有効である.そこで,本研究では,高圧X線回折と高圧中性子回折のデータを組み合わせ,リバース・モンテカルロ法(RMC)によりガラスの三次元構造を導出した.中性子回折実験において,約10 GPaまでは6軸プレスを,それ以上の圧力では,PEプレスを用いてデータの取得を行った.図16に得られた中性子構造因子S(Q)をN示す(なお高温高圧下の結果に関しては誌面の都合上,割愛する).約17 GPaまでの加圧において,高Qまで続く振動に大きな変化が見られないが,約7 A-1以下の低Q領域に大きな変化が見られた.これは短距離秩序を維持したまま中距離秩序が変化することを示しており,SiO 4四面体の形状を保ったまま,そのつながり方が変化することを示している.図17にX線構造因子と中性子構造因子を用いてRMC法により導出した原子配置を示す.SiとOを区別した三次元構造が得られたことで,部日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)分二体分布関数(図18),角度相関の圧力変化を知ることができた.永久高密度化のメカニズムに関しては,現在検討中である.4.最後に元構造.(3-dimensionalatomicarrangementofSiO2glassat5.4GPaand670℃obtainedfromX-rayandneutron S(Q)by RMC method.)図18三次元構造から導かれた部分二体分布関数.(Partial pair distribution functions obtained from the3-dimensional atomic arrangement.)本稿ではPLANETの概要と,応用例を紹介した.PLANETは現在,高温高圧下の中性子回折実験をルーチンに行える世界で唯一の装置である.また,散乱情報の高い位置選択性により試料周りの物質のBraggピークの混入がなく,精度の高い構造解析ができるようになっている.つまり,結晶構造解析においては,個々の反射の強度をより正確に決められるし,液体・非晶質の構造解析においては,ピーク混入によるblind領域がなく,すべての測定範囲にわたって試料の散乱強度を取得することができる.次にPLANETが与える高圧構造研究への影響を述べる.これまで放射光を用いた高温高圧X線回折実験では,パターンのピーク位置情報から相を同定し各温度圧力条件での安定相を調べるいわゆる“phase study”が主流であった.一方,中性子回折実験では,一様な散乱強307