ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

服部高典,佐野亜沙美,町田真一,阿部淳,舟越賢一,岡崎伸生えん製すると,塩を含んだ氷を作ることができる.本研究では,水分子6個に対して,LiCl/LiBrを1個含んだ高濃度の水溶液をMito System 9)に装填し,低温でいったんガラスにした後,それらを加圧,アニールすることで,高濃度に塩を含む氷を作製することに成功した(図11).それらの回折パターンを図12左下に示す.得られた回折パターンを純粋の高圧氷(氷Ⅶ相)のもの(左上)と比べると,水素の配列のみで決まる111反射が消失していることがわかった.これは,結晶の中の水素の配置が無秩序になっていることを示している.同時に行われた分子動力学計算結果を図12中央に示す.結晶中の水素は隣り合う酸素の間におらず,水素結合が破壊されていることがわかる.水分子の向き(双極子モーメント)の分布を見ると(図12右),塩を含まない氷では〈100〉方向を向いているのに対し,塩を含む氷では,ほぼ等方的であることがわかる.またその格子は純粋なものと比べ大きく膨らんでおり,減圧すると結晶状態を保つことができずに,再びガラスに戻ることがわかった.これらの性質はこれまでどの物質にも報告例がなく,新しい特異な性質をもった状態であると考えられる.13)3.3材料科学への応用:鉄中の水素の新しい占有状態水素は鉄に溶け込み,材料強度を著しく低下させる(水素脆性).鉄は鉄鋼材料として広く一般に使われているため,特性改善のためにその原因を知ることは,工学的に大変重要である.そのためには,水素が結晶中のどこに,どのくらい存在するのかという情報が必要になるが,常温常圧下で鉄に溶け込む水素の量はごくわずかであり(ppmオーダー),また溶け込んだ水素はX線では見えないことからこれまでその詳細はよくわかっていなかった.一方,水素圧を数GPa(万気圧)まで高めると状況は一変し,多量の水素が鉄に溶け込むようになる.しかし,このようにしてできた水素化鉄も常温常圧に取り出すと元の鉄に戻ってしまう(ほとんどの水素が抜け出てしまう)ために,高温高圧下でその場観察する必要がある.そこで本研究では,水素を封じこめられる高圧セルを開発し,これを用いて観察した(実験の詳細は文13)献参照).図13に鉄および鉄水素化物のPT相図上に記した実験のPTパスを示す.また得られた回折パターンを図14に示す.約7.4 GPaまで加圧後,昇温するとbcc-Feがfcc-Feになる.その後,水素化が始まり第1ピークと第2ピークの強度比の変化および格子の膨張が見られた.Feの水素化が完了した後に取得した回折パターンのリートベルト解析の結果を図15に示す.構造解析の結果,水素組成はx=0.64であり,また高温下で水素はこれまで言われてきたfcc格子の八面体サイトのみでなく(図15上段),四面体サイトも占有する(図15下段)ことがわかった.さらに理論計算の結果から,この現象は水素原子の図13FeおよびFeHxのPT相図上に表した実験のPTパスと水素源の分解温度.(Experimental PT phaseshown in the PT-phase diagram of Fe and FeH x,together with decomposition temperature of thehydrogen source.)図14 7.4 GPaまで加圧した後の昇温中のパターンの変化.(Change of the diffraction pattern during heating afterthe compression to 7.4 GPa.)図15得られた回折パターンの2つのモデルによるリートベルト解析結果.(Result of Rietveld analysis ofthe observed pattern by two models.)(上)水素が八面体サイトにのみ占有.(下)八面体サイトと四面体サイトを占有.306日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)