ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

ページ
37/66

このページは 日本結晶学会誌Vol59No6 の電子ブックに掲載されている37ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No6

超高圧中性子回折装置PLANETで何ができるか?図10回折パターンの温度変化.(Sequential change of thediffraction pattern during heating at 4.9 GPa.)地球形成期の状態を模擬した出発試料(鉄とシリカと水酸化マグネシウムの混合物)を,4.9 GPaまで加圧後,昇温すると,含水鉱物が分解して水を供給し,その後,純鉄(bcc)と反応し,鉄水素化物(fcc)が形成されている.図11(左)塩化・臭化リチウム-水系相図と(右)純粋なH2OのPT相図に記した本実験の温度圧力経路.(Experimental PT path shown in the LiBr/LiCl-H 2O phase diagram(Right)and the phase diagram ofpure ice(Left).)二重丸の温度圧力で,塩を含んだ特異な氷が形成された.がどのようなプロセスで入ったかはよくわかっていない.その有力な候補として宇宙存在度の大きい水素が挙げられるが,これまで水素を実験で直接観測することができなかったために,その詳細はわかっていなかった.そこで,本研究では中性子を用いて,地球形成期にコアに水素が取り込まれる様子を観察した.実験には高温高圧発生が可能な6軸プレスを用い,出発試料として初期地球を模擬した鉄とシリカ(SiO 2)と水酸化マグネシウム(Mg(OD)2)の混合物を用いた.図10に昇温時の回折パターンの変化を示す.4.9 GPaまで加圧した後,昇温すると,含水鉱物が分解して水を供給し,それらが固体鉄と反応して鉄水素化物FeD x(fcc)を形成する様子が観察された.このことから,地球形成期も同様のメカニズムでコアに水素が取り込まれたものと考えられる.また,今回の実験で水素は融解する前の固体状態の鉄に入り込んでいくことがわかった.先に示したほかの軽元素は液体状態の鉄にしか溶け込まないので,地球形成期において地球サイズの増大,それに伴う温度の上昇が起こった場合,ほかの元素に先んじて水素がコアに溶け込んだものと考えられる.また,水素が溶け込むことにより融点は500℃以上も低下するため,その後のコア―マントル分離過程やほかの軽元素がコアに溶け込む過程に大きく影響すると考えられる.えん3.2 物理化学,惑星科学への応用:塩を大量に含む氷12)の特異な構造を解明氷は,木星型惑星の衛星や海王星型惑星の主要構成鉱物であり,その低温高圧下における構造,物性はそれらの天体の内部構造を推定するうえで重要である.これまで不純物を含まない氷に関して数多くの研究がなされ日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)図12(左)中性子回折により得られた純粋な氷(iceⅦ相)と,今回得られた“塩を大量に含む氷”の回折パターン.青は実測値.赤線は想定される強度.(中央)分子動力学計算により得られたそれぞれの氷の原子配置.赤:O,白:H,黄色:Li,緑:Cl,(右)水分子の双極子モーメントの向きを球面上に確率分布として示したもの.((Left)Neutron diffraction pattern of pure and salty icetaken at high-P condition. The red lines show theexpected intensity(Center)Snap shot of the atomicarrangementobtainedbyMDsimulation,Red:O,White:H, Yellow:Li, Green:Cl,(Right)Statisticsof the direction of dipole moments of water moleculeobtained by MD simulation.)てきたが,実際の氷天体は海や金属,鉱物との相互作用によって不純物を含んでいると考えられるため,不純物を含んだ氷の研究を行う必要がある.通常,塩水を凍らせると,塩は氷から吐き出される.しかし,原子の拡散が抑制された低温で加圧して氷を作305