ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

服部高典,佐野亜沙美,町田真一,阿部淳,舟越賢一,岡崎伸生表1 PLANETの性能.(Specification of PLANET.)中性子源から試料までの距離25 m試料から検出器までの距離1.5~1.85 m(方位による)検出範囲90°±11.3°(水平方向)0°±34.6°(鉛直方向)分解能(Δd/d)0.6%dレンジ0.2~4.2 A(single frame)0.2~8.4 A(double frame)Qレンジ1.5~30 A-1(single frame)0.8~30 A-1(double frame)試料位置での中性子フラックス5.291×10 7 neutrons cm-2 s-1(加速器パワー1 MW時)実験可能温度圧力領域0~16 GPa, RT-2000 K(6軸プレス),0~20 GPa, RT(PEプレス)0~5 GPa, 77~473 K(Mito system)にその写真とその場観察可能な温度圧力領域を示す.常温高圧実験では,海外の施設でも広く使われているパリ-エジンバラプレス8)(以下PEプレスと呼称)が用いられ,焼結ダイヤモンド製アンビルを用いることで20 GPaを超える圧力での高圧中性子実験が可能となっている.また,低温高圧実験では,東大の小松氏の開発したMito system 9)が使用されている.このプレスは従来行われていたようなプレス全体を液体窒素に浸すのではなく,アンビル周りに流体窒素を流すことにより,本体の油圧ラムを常温にしたまま試料部のみを冷やせる.そのため,これまで難しいとされてきた低温下での加減圧を行うことができる.それゆえ,状態が温度圧力履歴により変わる氷の研究などに効果を発揮している(詳細は本号の小松氏の記事を参照).また,より高い圧力での実験を可能にするため,ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた実験にも取り組んでいる.米国SNSの高圧ビームラインSNAPでは,DACを用いてすでに100 GPaでの中性子回折実験に成功している. 10)2.4 PLANETの性能これまで明らかとなっているPLANETの性能を紹介する.表1にその仕様を示す.図8に中性子散乱実験で一般的に用いられるバナジウム管に入れたSi粉末(NISTSRM640d)の回折パターンを示す.Braggピークはシャープで対称性もよいことがわかる.またバックグラウンドも十分低く,リートベルト解析を行うのに十分なレベルである.測定可能なdレンジは通常の測定モード(singleframe mode)では0.2~4.2 A,25 Hzで発生するパルスの2つのうちの1つを除去すれば(double frame mode)さらに2倍の0.2~8.4 Aとなる.これはQ値に直すと0.8~30 A-1であり液体・非晶質の構造解析を行うのに十分である(地球科学的に重要なケイ酸塩ガラスのFirst Sharp DiffractionPeakが位置するQ=1.5 A-1をカバーしている).次に,ラジアルコリメータによる散乱情報選択性を紹介する.図9に6軸プレスを用いた高温高圧実験で標準的図8に使用される高圧セルに試料を入れたときの,コリメータがある場合とない場合の回折パターンの比較を示す.コリメータがない場合(図9下段)には,試料周りの物質(試料容器,ヒーター,圧媒体)からのBraggピークが見られるが,コリメータがある場合(図9上段)はそれらがすべて除去され,試料のピークのみとなっていることがわかる.3.応用例バナジウム管に入れたSi粉末(NISTSRM640d)の回折パターン.(A neutron diffraction pattern of Sipowder(NIST SRM640d)in a 3 mm-diameter V can.)図はElsevierの許可を得て文献5)より転載.図9ラジアルコリメータがある場合とない場合のMg2SiO4forsteriteの回折パターンの比較.(Comparison ofdiffraction patterns of Mg 2SiO 4 forsterite with andwithout radial collimators.)図はElsevierの許可を得て文献5)より転載.次にPLANETで行われた研究の例を紹介する.3.1 地球科学への応用:地球形成期におけるコアの軽元素の謎に迫る11)地球の中心核(コア)は,鉄を主成分とする合金でできていることが知られている.しかしながら,地震波から推定されるコアの密度は,高温高圧実験から決定される合金の密度より数%低いことが知られており,多量の軽元素が含まれていると考えられている.その候補として,S,Si,O,C,Hなどが提案されているが,どの元素304日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)