ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

超高圧中性子回折装置PLANETで何ができるか?リットと組み合わせることで,3 mm角以下の領域の情報を選択的に取得できようになっており,これらを用いることで試料を取り囲むヒーターや圧媒体からの散乱を除去することができる.また,試料下流にイメージングカメラを設置することで高圧下のラジオグラフィーもできるようになっている.常温高圧あるいは低温高圧実験を行う際には,マルチアンビルプレスは下流に退避され,その場所には小型プレスが設置される.2.2 6軸型マルチアンビルプレス「圧姫」6)これまで高温高圧下その場観察実験は,試料が小さくても十分な信号強度が得られる放射光を用いて主に行われてきた.それらの施設の高圧ビームラインでも大型のマルチアンビルプレスが使用されてきたが,中性子実験では,強い中性子ビームが得られないために,試料を大きくするおよび散乱立体角を稼ぐなどの工夫が必要となる.しかしながら,従来型のマルチアンビルプレスでは,試料を等方的に加圧するための機構(ガイドブロックとスライディングブロック)が散乱開口角を厳しく制限してしまうために,散乱中性子のごく一部しか収集できないという問題があった.また,先に述べたような試料散乱情報のコリメーションを行う際,中性子ビームの発散が大きいため(放射光の約200倍),入射および受光コリメータを試料のなるべく近傍に設置する必要があるが,従来型ではそれが不可能であった.そこで採用されたのが6軸型のマルチアンビルプレス(以下6軸型プレスと呼称)である.6軸型プレスは従来型とは異なり,6つの加圧軸それぞれに油圧ラムをもっており,それらを精密に同期して作動させることにより試料を等方的に加圧するシステムである.当時この方式を採用したプレスは,世界にまだ2台(日本のISEIとドイツのBGI)しかなく実績に乏しかったため,その採用は,PLANETにとっては大きな賭けであった.そのため急遽それらのプレスの性能評価を行い,問題点の洗い出しとその改善方法の検討を行った.調査の結果,6軸プレスは実用に耐え得ると判断し中性子回折実験用に新規に製作した(図5).その性能の詳細は文6献)に譲るが,最終的には,各軸の同期精度70μm以下で1軸当たり5,000 kNまで加圧できる装置が完成した.実際の実験では,試料の加圧は,二段目アンビルを一段目アンビルで加圧する二段加圧方式(MA6-6)7)が採用されている.この方式は二段式加圧のもつ特徴,すなわちアンビル相互の位置関係を自己アライメントさせることによる加圧精度の向上に加え,中性子照射により放射化したアンビルを素早く取り替えることができるという利点をもつ.図6に高温高圧実験で一般的に使用される高圧セルを示す.ペレット状に整形された試料は,グラファイトチューブの中に入れられ,それらはMgOないしZrO 2の圧媒体の中に装填される.加圧には,先端が日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)図5 PLANETにインストールされた6軸型マルチアンビルプレス「圧姫」.(Six-axis multi-anvil press ATSUHIMEinstalledatPLANET.)図6高温高圧実験で用いられる高圧セル.(A typicalhigh-pressure cell used in high-PT experiments.)図7 PLANETで用いられる各種高圧装置とその場観察実験が可能な温度圧力領域.(Various high-pressurepresses used at PLANET and the currently availablePT condition.)truncateされた四角錐の超鋼合金製アンビル6つが用いられる.試料の加熱は,上下のアンビルを通してヒーターに通電することにより行われる.この方式により現在,直径約4 mm高さ4 mmの円柱試料に対して,約10 GPa,2,000 Kの高温高圧発生が可能となっている.2.3小型プレスPLANETでは,高温高圧以外の条件での実験のために各種の小型プレスが使用できるようになっている.図7303