ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

服部高典,佐野亜沙美,町田真一,阿部淳,舟越賢一,岡崎伸生図2世界のパルス中性子施設と高圧専用ビームライン.(Pulsed neutron facilities in the world and the highpressurebeamlines launched there.)図3超高圧中性子回折装置PLANETの断面図.(Cutawayview of the high-pressure neutron diffractometerPLANET).は,海水という形で多くの水が存在しているが,地球内部にも結晶水ないし水酸基の形で大量の水(海水の数4倍~数十倍)が鉱物中に含まれている.最近の研究)では,地球深部のマントル遷移層由来のダイヤモンドの中に1 wt%の水を含むRingwoodite(マントル遷移層の主要構成鉱物)が見つかり,場所によっては大量の水を含んでいることが実証されている.これら鉱物中の水は,岩石の弾性率(機械的性質)を下げたり,融点(熱力学的性質)を下げたりするため,地球の物性に大きな影響を与えていると考えられている.地球科学では,地表で観測される内部の情報(地震波の伝搬速度から地球内部の密度分布,磁気嵐の応答から地球内部の電気伝導度分布など)と地上における高温高圧実験結果(高圧地球科学)の双方から地球内部モデルを構築するが,それを行ううえで,高温高圧下で水が与える鉱物の構造・物性への影響を知ることは重要である.これを行うためには,水あるいは水素を「見る」ことのできる中性子を用いた高温高圧実験が有効である.このような重要性があるにもかかわらず,高圧下における中性子実験はこれまであまり行われてこなかった.それは,これまで使用できる中性子ビームの強度が弱く,原理的に小さな試料を扱わざるを得ない高圧実験と相性が悪かったためである(使用可能な試料サイズV maxは,おおよそV max∝P-3/ 2 max.P maxは発生可能圧力).しかしながら近年,世界各国で大強度のパルス中性子源が建設され,高圧中性子実験が現実的なものとなってきた.図2に世界のパルス中性子源(赤枠)とそこに建設されたあるいは建設予定の高圧専用ビームライン(赤字)を示す.日本でも,東海村に大強度陽子加速器施設J-PARCが建設され,そこに建設されたのが超高圧中性子回折装置PLANET 5)である.2.超高圧中性子回折装置PLANET2.1超高圧中性子回折装置とは?PLANET(Pressure Leading Apparatus for NEuTron図4六軸プレスを用いた場合の回折ジオメトリー.(Diffraction geometry for experiments using the 6-axis5press.)図はElsevierの許可を得て文献)より転載.diffraction)とは,J-PARCの物質・生命科学実験施設(Materials and Life Science Experimental Facility)に建設された高圧実験専用の中性子ビームラインである.その最大の特長は,高温高圧発生に長けたマルチアンビルプレス「圧姫」6)を擁し,高温高圧下(10 GPa,2,000 K)での中性子回折実験ができることである.図3にPLANETの概略図を示す.核破砕反応によって発生した高速中性子は,減速材(1.5 MPa,20 Kの超臨界パラ水素)により実験に適当な速度に落とされ,各ビームラインに供給される.そのうち,実験に有用な中性子が,鉄コリメータやチョッパー,四象限スリットで時間的および空間的に選別され,疑似放物線形状のスーパーミラーガイド管により実験ハッチまで輸送・集光される.試料の直前には,小型の四象限スリットが設置されており,試料以外の部分にビームを当てないように,工夫がなされている.高圧下の試料により散乱された中性子は,アンビルの隙間を通してプレスの両側に設置された3 He位置敏感型検出器で検出される(図4).検出器の前には,ラジアルコリメータが配備されており,ブレード間隔の異なるものを用いることで,ビーム軸方向に関して1.5 mmないし3 mmの部分を見込めるようになっている.入射ス302日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)