ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

日本結晶学会誌59,301-308(2017)ミニ特集中性子回折で拓く鉱物結晶学超高圧中性子回折装置PLANETで何ができるか?日本原子力研究開発機構J-PARCセンター物質・生命科学ディビジョン服部高典,佐野亜沙美総合科学研究機構中性子科学センター町田真一,阿部淳,舟越賢一,岡崎伸生Takanori HATTORI, Asami SANO-FURUKAWA, Shinichi MACHIDA, Jun ABE, KenichiFUNAKOSHI and Nobuo OKAZAKI: What can we do with the High-PressureNeutron Diffractometer PLANET?PLANET is a powder neutron diffractometer dedicated to high-pressure experiments. Bycombining the intense neutron source of J-PARC and the high-pressure devices designed for time-offlightpowder neutron diffraction, precise structure analysis of crystal, liquid, and amorphous solidsis possible over wide pressure and temperature range of 0~20 GPa and 77~2,000 K. This beamlineis effective for various studies in geophysics, planetary science, physics and chemistry. This paperoverviews the beamline and introduces recent results obtained at PLANET.1.はじめに1.1超高圧中性子回折装置で何ができるか?超高圧中性子回折装置PLANETとは,東海村のパルス中性子施設,J-PARC物質・生命科学実験施設に建設された高圧専用の粉末回折ビームラインである.PLANETは,通常の中性子回折装置でできることを,約0.1~20 GPa(1 GPa≒1万気圧),77~2,000 Kの広い圧力温度範囲で行うことができる.中性子の物質との特徴的な相互作用を利用して,X線では「見る」ことができないような物質の構造を,高圧下で精密に調べることができる.この特徴は,地球深部の高温高圧下における鉱物中の水(結晶水,水酸基)や水素の状態,惑星内部の低温高圧下における軽元素の状態,およびそれらが与える天体の内部構造,進化過程への影響を推定するのに役立てられている.本稿では,装置の概要,その性能を紹介し,地球科学,惑星科学,材料科学への応用例を紹介する.なお,建設の経緯1)-3や実験の実際に関しては,文献)を参照のこと.1.2中性子の特徴と有用性まず,中性子の特徴と物質のcharacterizationにおける有用性をX線と比較しながら述べる.最も顕著な違いは,X線が電磁波で,中性子が電荷0,スピン1/2の粒子である点である.そのため,X線回折では,物質内の電子密度分布がわかるのに対し,中性子回折では,原子核の分布(正確には散乱長密度分布)や,磁気モーメントの大きさ,向き,分布を知ることができる.また散乱長(X線の原子散乱因子に相当)は,X線では電子数に比例するが,中性子では原子種や同位体によってまちまちであり,ものによってはほぼ0や,負のものさえある.そのためX線では観測できないH +(プロトン)や,重元素中の日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)軽元素を見ることができる.またMg 2+,Al 3+,Si 4+,O2-などの地球科学的に重要な等電子イオンを区別することができる.さらに,中性子は,原子核でピンポイントに散乱されるために,散乱長は,高Qまで減衰しない.そのため,高Qまでの散乱強度が測定可能であり,そのフーリエ変換である実空間情報を高い分解能で知ることができる.加えて,中性子は物質中の磁気モーメントと相互作用するため,磁気構造を調べることができる.一方,X線と中性子の両方を用いた実験を行えば,各々の実験だけでは得られない情報(例えば,結晶構造解析における原子の熱振動と電子雲の広がりの区別や,多成分液体の部分構造)を知ることができる.1.3高圧下における中性子回折実験次にPLANETの得意とする高圧下での中性子回折実験の必要性に関して述べる.図1に地球の断面図と水(結晶水,水酸基),水素のかかわりを示す.地球表層に図1「水」が及ぼす地球・惑星への影響.(Effect of"water"on Earth and Planets.)301