ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

氷XVの部分秩序状態について関数法によるエネルギー推定を行ったところ,従来の複数の理論計算でも最安定とされていた,Pcの空間群をもつ配置が最安定となることを再確認した.また,Del-Benらが指摘しているように,Pcモデルでは,その強誘電的配置が常誘電的な無秩序相の中で核形成する際,表面の電荷が自由エネルギーに与える影響が比較的大きくなることも改めて確認した.しかしわれわれは,Pcモデルが最安定かどうかという点よりはむしろ,各配置間のエネルギー差がきわめて小さいということに注目した.特に比較的安定な数種類の配置では,そのエネルギー差は換算温度にして10 Kに及ばない(図4).ボルツマン分布を仮定して各配置の存在確率を見積もると,20 K程度ですでに2番目の準安定配置が現れはじめ,実験を行った80~130 Kの範囲では,かなりの数の配置が共存するということになる.2.2部分秩序構造モデルによる解析完全な秩序構造に対するリートベルト解析および理論計算から確実に言える結論は,45の配置のうち,どれか単一の配置が特に有利となるわけではない,ということである.完全な秩序構造では氷XVを表現できないとすると,ほかにどのような構造が考えられるだろうか.前節では,氷VIの構造から出発して,完全な秩序構造を演繹的に導出したが,本節では,得られた粉末中性子回折パターンから帰納的に導かれる部分秩序構造について述べる.秩序化に伴って新たに現れたピークには,003,221,113などがある(図5).これらは,氷VIの空間群P4 2/nmcがもっていた消滅則hhl:l=2nおよび00l:l=2nに対応する.一方,ほかの消滅則hk0:h+k=2nとh00:h=2nは維持されている.P4 2/nmcの部分群のうち,上記の消滅則をもち,かつ氷VIと単位格子の大きさを同一にする空間群で,最も対称性の高いものはPmmnとなる.実は,このPmmnという空間群は,40年以上も前に行われ9たKambによる氷VI(VI')の粉末中性子回折の報告)の中で,すでに示唆されていたものである.Kambは,氷VIを高圧下で合成したのちに,低温で圧力セルから試料を回収し,低温のまま回折実験を行っており,われわれの温度圧力パスに近い.Kambは,それまでX線回折などから得られていた空間群の消滅則にあたる反射が低温で見られたことについて,氷VIが低温で秩序化した結果であることをすでに指摘しており,これを氷VI'と名付けていたのである.残念ながら,Kambの報告には回折パターンが提示されていないので,実際に同じような回折パターンであったかどうかは,今となっては知る術はないが,Kambの実験とわれわれの実験が,ほぼ同じ温度圧力パスを経ていることを考えると,氷VI'相は氷XVと同一のものと考えられる.むしろ,Kambの発表が図5氷VI(a)および氷XV(b,c)の構造モデル(VESTA 4)で作成)と部分秩序モデルによるリートベルト解析の結果(d,e).(Structure models ice VI and XV, and the results of Rietveld refinements for powder neutron diffraction patternsbased on the partially ordered model.)日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)297