ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

ページ
28/66

このページは 日本結晶学会誌Vol59No6 の電子ブックに掲載されている28ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No6

小松一生,山根崚,則竹史哉,町田真一らなる.これを無向グラフで表現すると,グラフ理論ではよく知られたK5と呼ばれる完全グラフになる.アイスルールを満たす可能な秩序構造は有向オイラー閉路であったから,適当な一筆書きを与えれば,可能な秩序構造の一例を簡単に作ることができる.有向完全グラフの場合,すべての可能な閉路は,矢印の向きを固定して頂点のラベルを入れ替えることで得ることができる.重複を避けるために,1つの頂点を固定して,ほかの4つの頂点を並べ替える順列は4!=24通りあり,さらに氷VIにある2つのネットワークで秩序化の仕方はそれぞれ独立なので,24 2=576通りの可能な秩序構造(以降簡単のため,本節では「配置」と呼ぶ)が存在することになる.これら576通りの配置のほとんどは,氷VIがもつ対称操作によってほかの配置と互いに等価となるが,今後の解析や計算を簡略化するためには,対称等価でない配置のみを考慮すればよい.ここで,もしある配置Q 1が対称操作gによって別の配置Q 2に移るとき,gは無秩序相である氷VIの空間群(P4 2/nmc,G)がもつ対称操作の1つであり,かつQ1やQ 2が属する空間群Hの対称操作には含まれない(仮にHに含まれる対称操作hをQ 1に施すと,Q 1自身になる).言い換えれば,576ある配置のうち,i番目の配置Q iに16あるGの対称操作を施せば,Qiそのものか,Q i以外の別の配置か,いずれかになる.こうして576×16の積表を調べれば,対称操作によって移り変わらない独立な配置-結果として45存在する-を抽出することができる.ちなみにSalzmannらが検討した18の配置は,45の配置のうち空間群がP1ではないものに相当する.45の配置の25空間群などの詳細については,原著論文)の付表を参照いただきたい.実は,これら45の配置のうち,パターソン関数が共通となるか,あるいは対称性によって等価となるパターソン関数をもつ配置が24(12ペア)存在する.すなわち,これら12ペアは粉末中性子回折では互いに区別のつかない構造となるが,すべての配置に対する解析の結果を明示的に示すため,また後述する理論計算の結果とも比較する必要があることから,これら12ペアを含む全45の秩序構造のそれぞれについて,氷VIの無秩序相との2相混合状態であるとして,リートベルト法による解析を行った.本解析で最適化した変数は,各相のスケール因子のみであり,ほかの変数は氷VIとして最適化した値に固定した.技術的には原子位置などを変数に加えて解析することも可能ではあるが,先述したように多くのピークが重複してしまう状況では統計的に有意な解析は困難であり,また45の配置それぞれに変数の数が異なると公平な比較が困難になるため,ここではスケール因子のみを変数とした.解析の結果,P1,P2 111,P12 11,P11nの空間群をもつ4つの配置(それぞれ#39~#42)がほかの配置に比べわずかに低いR因子,かつわずかに高い相分率となった(図4).この4つの配置とほかの配置とでは,00l反射(lは奇数)の強度に違いが出る.すなわち,F 00lの絶対値で45の配置を分類すると,上述の4つの配置で最大,別の16の配置ではその1/2となり,残り25の配置では|F 00l |=0となる.ところで,図2に色掛けで示したピークは003であり,秩序化の際,最も顕著に顕れるピークの1つであるが,この003反射の大きさが,4つの配置のR因子・相分率に反映された結果となっている.さらに,導出された45の配置すべてについて,密度汎図3氷VIおよびその秩序相の水素結合ネットワークのグラフ化.(Schematic drawing of graphs for hydrogenbonding network of ice VI and its ordered form.)(VESTA 4)で作成.)図445の水素配置に基づく構造モデルを用いたリートベルト解析および理論計算の結果.(Results ofRietveld refinements and theoretical calculations for45 completely ordered configurations.)296日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)