ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

日本結晶学会誌59,293-300(2017)ミニ特集中性子回折で拓く鉱物結晶学氷XVの部分秩序状態について東京大学大学院理学系研究科小松一生,山根崚山梨大学大学院総合研究部工学域・理化学研究所則竹史哉総合科学研究機構中性子科学センター町田真一Kazuki KOMATSU, Ryo YAMANE, Fumiya NORITAKE and Shinichi MACHIDA:Studies on Partially Ordered State of Ice XVHere I discuss a problem of an inconsistency among various experiments and calculations for iceXV, the ordered form of ice VI, i.e., neutron diffraction observations suggest antiferroelectrically orderedstructures, which disagree with dielectric measurement and theoretical studies, implying ferroelectricallyordered structures. Our recent neutron diffraction experiments and DFT calculations support a scenarioin which several kinds of ordered configuration coexist, which was proposed more than 40 years ago byKamb. More recently published arguments in terms of this issue are also briefly reviewed.1.はじめに1.1氷の多形~なぜこれほど多いのか~氷には異常とも言えるほど数多くの多形が存在する.1900年にGustav Tammannが氷II,IIIの2つの多形をローマ数字で表記して以来, 1)氷の多形には,(ほぼ)* 1発見順にローマ数字で番号が振られており,2017年10月現在,氷XVII(17)までが報告されている(図1).2)ローマ数字が振られるのは,実験的,特に結晶学的に新たな相が同定された場合のみに限られるが,3)理論的に存在が予想されている相や,結晶構造は不明であるものの各種物性の変化から相転移が示唆されるものまで含めると,その総数は20にも30にもなると言われている.氷はなぜ,これほど多くの多形をもつことができるのだろうか.その答えの1つを氷のもつ水素結合と四面体配置の多様性に求めることができる.水素結合は,その結合距離や角度に大きな自由度があり,共有結合半径やイオン半径に対応するような“水素結合半径”なるものは存在しない.氷の結晶構造は水分子中の酸素を中心とする四面体で表現することができ(図1),その四面体中の∠H-O-Hは理想値である109.4°から最大20°程度離れているケースもあり,四面体間の距離もさまざまである.多くの氷多形の存在領域が2 GPa以下の比較的狭い温度圧力範囲に密集していることからもわかるように,各構造間のエネルギー差は小さく,準安定相も数多く出現することも氷多形の特徴である.一方,1つの水分子に着目すると,その水分子に隣接する水分子は4本の水素結合で結ばれることになる.4本の水素結合のうち2つが注目する水分子の酸素に配位し,残りの2つが隣接する水分子の酸素に配位することになるが,その配置の組み合わせは水分子1つとっても4C 2=6通りもある.Linus C. Paulingは,n個の水分子中でアイスルールを満たす水素配置の数が,近似的に(3/2)nになると算出したが,5)仮にnを1,000図1氷の相図と結晶構造.(Phase diagram and crystalstructure of ice.)水分子が作る四面体で結晶構造を表現した(VESTA 4)で作成).本研究の中性子回折実験結果から推定された氷VI-XV相境界(点線)および代表的な実験温度圧力パス(緑矢印)を相図上に示した.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.*1例えば,氷IV相は1935年にBridgmanによって報告された(P. W. Bridgman: J. Chem. Phys. 3, 597(1935).)が,そのBridgmanが1912年に氷V,VI相を報告した論文(P. W. Bridgman: Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences, 47, 441(1912).)で,「(1900年に氷II,III相を発見した)Tammannによって示唆されている別種の氷は存在しない可能性もある.しかし,見つかる可能性も考慮してIVは空番とした(p.528)」と述べている.また,氷Icは1896年の段階でその存在が示唆されている(H. P. Barendrecht: Z. Phys. Chem. 20, 234(1896).)が,構造が実験的に同定されたのは約半世紀後の1943年(H. Konig: Z. Kristallogr. -Cryst. Mater. 105, 279(1943).)のことである.日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)293