ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

SHELXTによる構造および空間群の決定表6ラセミ有機化合物(Ⅳ)の空間群決定.(Space groupdetermination of an organic racemate.)R1Rweakα*)配向空間群FlackFormula0.2370.0490.069 as inputPbam-C16 O3 Br0.1560.0310.040 as inputPba20.15C11 O Br0.2200.0440.060 c, a, bPmc2 10.49C27 O9 Br20.2240.0450.066 c, b,-aPmc2 10.49C16 O3 Br0.2420.0470.079 as inputP2 12 120.49C12 O5 Br*)標準設定への軸変換を示す(表7参照).表8空間群決定に際して注意を要する例.(Example ofspace group determination where caution is needed.)[出典:Sheldrick, 1)Fig.6を改変]R1Rweakα空間群FlackFormula0.0730.0050.018P6 3/mmc-Ca4 O17 S20.0740.0040.016P6 3mcNo FpCa O17 S50.0390.0040.017P6m2No FpCa3 Mn O17 S20.0690.0050.017P62c0.49Ca4 O17 S20.0690.0040.019P6 3220.42Ca4 O17 S2表7 Pmc2 1の非標準設定および標準設定への軸変換.(Non-standard setting of Pmc2 1 and transformation ofthe axes to the standard setting.)空間群非標準の軸設定*)標準設定への軸変換P2 1mac, a, bb, c, aP2 1am-c, b, ac, b,-aPm2 1ba,-c, ba, c,-bPb2 1mb, c, ac, a, bPcm2 1b, a,-cb, a,-c*)SHELXTの出力ファイルlxtではOrientation(配向)として表示される.が小さくてもSHELXTはデフォルトとしてそのラウエ群に可能なすべての空間群を試す.ただし,それはあくまでも疑似対称心への対策である.重原子が入っているため,見掛け上対称心のない構造になるということはあり得ない.このため,α0が0.3より大きければ対称心のある空間群の検査は行われない.6.4直方晶系Pba2ラセミ体の有機化合物(Ⅳ)C 22H 28Br 2O 2の結晶は直方PでZ=2である.SHELXTでP1としての位相が計算され,α0は0.118であった.0.3以下なので通常ならば対称心ありと判定するところであるが,重元素Brが予期されているため,プログラムは対称心のある空間群64個だけでなく,対称心のない空間群56個も含めて検査する.その結果,5つの候補が選び出された(表6).R1がほかよりも明らかに小さいことから,Pba2が最終的に選ばれ,そしてそれが本当に正しい空間群であった.なお,表6を見ると同じ空間群Pmc2 1(No.26)でも軸設定が違う場合が見られる.この空間群Pmc2 1の場合,結晶軸a,b,cのとり方を変えると,空間群の記号も変わってくる(表7).これらを非標準設定という.構造解析にあたっては特別な理由がない限り,空間群の標準設定に直すことが義務づけられている.このため,SHELXTではこのような場合に軸変換を行う.実際に_c.resや_d.resファイルには軸変換後の格子定数が出力され,また_c.hklや_d.hklファイルにはそれに応じて指数変換された反射データが出力される.6.5六方晶系P6 3/mmcSHELXTによって決定された空間群が常に正しいと1)は限らない.プログラムの作者Sheldrick自身が,論文日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)に注意喚起のために示した例を次に紹介する.それは,六方晶系でラウエ群6/mmmの無機化合物であり,SHELXS97で構造が解かれ,対称心のない空間群P62cとして論文発表された. 14)しかし,注目すべき危険信号としてcheckCIFで対称心が検出されていた(警告B).デポジットされた反射データをもとに,SHELXTで検討すると,次のようになった.結晶中に21Scよりも重い元素Mnを含むため,SHELXTはこの場合に対称心のある4つの空間群だけでなく,対称心のない12の空間群も検査する.その結果,5つの空間群が候補として選ばれた(表8).R1がほかよりも下がっていることから,対称心のない空間群P6m2が最終的に選び出された.実はこの結晶の真の空間群は,対称心のあるP6 3/mmcであった.論文で発表されたP62cもSHELXTが選んだP6m2も誤りである.表8のP6m2やその他の空間群はP6 3/mmcの部分群であり,得られた構造モデルは本質的にすべて同じ解であった.電子密度を解釈する際に,たまたまP6m2のときだけCaとMnを正しく判別できたため,それがR1の低下に反映したのであった.これは比較的希なケースではあろうが,SHELXTが選んだ空間群が常に正しいとは限らない.おおまかに見積もって,空間群の正解率は約97%とのことである.1)つまり,100%ではない.Sheldrick曰く,「経験の浅い人がプログラムの計算結果をすべて正しいと思い込むことが一番危険である」.7.プログラムの限界SHELXTは単結晶X線回折用であり,中性子回折には適用できない.また,結晶構造が(乱れのない)原子からなることを前提としている.このため,ひどく乱れている構造あるいは双晶には対応しきれない.もし,SHELXTでうまく初期構造が出ない場合は,消滅則に基づく空間群の決定に立ち戻る必要があろう.そして,通常はあり得ないような消滅則から双晶であることがわかるかもしれない.9)いずれにしても構造が解けて精密化がほぼ収束したら,できるだけ早く仮にCIFを出力してcheckCIFで検査し,空間群間違いの警告が出ないか,また解析上の不備がないかを確認するとよい.291