ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

SHELXTによる構造および空間群の決定表3有機セレン化合物の位相決定例.(Example of phasedetermination for organoselenium compound.)[出典:Sheldrick, 1)Fig.2を改変]Try*N(iter)CCR(weak)CHEMCFOM110095.30.1180.9740.835210085.00.1460.4600.704310082.70.1260.5670.701410082.60.1090.6890.717*異なるパターソン重ね合わせベクトルを使用.表4有機セレン化合物の空間群決定例.(Exampleofspacegroupdeterminationfororganoseleniumcompound.)[出典:Sheldrick, 1)Fig.3を改変]R1Rweakα空間群FlackFileFormula0.210.100.12P2 1/m-_aC28 O4 Se0.100.050.04P2 1-0.01_bC22 O2 Se0.190.100.14Pm0.28_cC34 O9 Se21CC:Go(h)とG c(h)の間の相関係数.大きいほどよい.2R(weak):(消滅反射も含めて)|E o(h)| 2の小さいほうから10%の反射の|E c(h)| 2の平均値.小さいほどよい.3CHEM:分子として解釈可能な(距離1.1~1.8 A,角度95~135°で配列している)電子密度ピークの割合.4CFOM:総合良度指数(combined figure of merit)CFOM=0.01CC-XR(weak)(ただし,係数Xはデフォルトで1).結晶構造が分子からなるとは限らないため,CHEMはデフォルトではCFOMに組み込まれていない.CFOMが大きいほど,良い位相セットと推定される.例を表3に示す.これは有機セレン化合物12)の計算結果である.1)4つの位相セットが試され,それらのR(weak)はあまり差がないが,一番目の位相セットの相関係数CCが大きいことからCFOMも最大となり,これが最善と判定された.分子としての電子密度の解釈の指標CHEMも良好であり,期待がもてる.このようにP1としての位相を求めてから,次にそれを基に空間群を決定する.(5)原点シフトΔxと空間群の候補の選出SHELXTは,まずP1としての位相誤差の指標αを計算する(これをα0と呼ぶ).α0が0.3よりも小さいときは,おそらく対称心のある構造と推定される.ただし,21Scよりも重い原子を含む構造のときは疑似対称心という可能性もあることから,SHELXTでは対称心のない空間群も検査する.表3で引用した有機セレン化合物の結晶は,単斜Pである.α0が0.175と小さいが,重原子を含むことからこの場合,次のような計算過程をたどる.1標準の軸設定以外のときも含めて,全部で14の空間群(表1)について,原点シフトと等価反射の位相の適合を検査する.2αが閾値(デフォルト0.3)よりも小さい空間群を候補とする.そして(次に述べるように)電子密度を解釈し,構日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)造を等方性で精密化する.これで,表4のような計算結果が得られる.(6)実空間精密化ループと電子密度のスケーリング候補として選び出された各空間群について,その空間群が正しいものと仮定して等価反射の位相を平均し,さらにフーリエ変換と逆フーリエ変換を10回くり返して,よりよい電子密度を求める.その際に行う修正は,実空間において負の電子密度をゼロに置き換えることだけである.その後,各ピーク位置の周りで球内(半径のデフォルト0.7 A)の電子密度を積算し,絶対尺度に直すために,次の検査(a)~(d)を順番に試みる(失敗したら,その次を試す).(a)指定された元素の中に炭素が含まれているときは,電子密度が似た値で,C-C距離(1.25~1.65 A)にあるピークを探す.十分な数だけ見付かれば,それらが平均で原子番号6になるようにスケールを定める.(b)もしホウ素の含有が予期されているときは,1.65~1.8 Aの結合距離をもつホウ素のカゴ構造を探す.(c)酸化物陰イオンについてサーチする.酸素原子は互いに似たような積分電子密度をもつはずで,また,それらと中心原子との距離も似た値になるはずである.(d)もし,上記の検査がいずれもうまくいかないときは,予期されている元素のうち一番重いものが,積分電子密度の最大ピークと対応するとみなす.(7)電子密度ピークへの元素の割り振り電子密度のスケール因子が定まったら,各ピークの電子数に応じて元素を割り振る.もし,軽原子のみが(SFACで)予期されているのにもかかわらず,異常に高いピークがあるときは,ハロゲン化物イオンが入っているものとみなし,Cl,BrあるいはIとして追加する.(8)等方性の精密化得られたモデル構造を等方性で精密化し,R1すなわち残差因子R(F)を計算する.対称心のない構造のとき13は,パーソンズの商の方法)でフラック変数を求め,もしそれが0.5よりも大きいときは構造モデルを反転する.この段階で求まった構造モデルのままでは,原子や分子の一部が等価位置に分散している可能性がある.そこで,原子をできるだけ寄せ集め,またそれらの中心が単位胞内に納まるように原子座標を調整する.(9)空間群の判定三斜晶系のときは基本的にα0の値で空間群を判定する.ただし,重原子が(SFACに)予期されている場合はα0が小さくても疑似対称心という可能性もあることから,P1とP1の両方を候補とする.三斜晶系以外のときは,指標αが小さい空間群をすべて候補とする.そして,等方性で精密化した後のR1などを基に,その中から最289