ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

SHELXTによる構造および空間群の決定む構造では,重原子間のベクトルが強く現れるため,パターソン関数から重原子の位置を求めるのは比較的容易である.その後は,重原子の位置を手掛かりにフーリエ合成をくり返すことで構造を解くことができる.軽原子だけからなる構造でも,パターソン関数は役に立つ.SHELXTではパターソン関数を加工し,それを初期構造モデルとして利用する(後述参照).(2)直接法構造因子の振幅|F|に基づいて,位相?を理論的に推定する方法を直接法という.これは推定した位相がおおむね正しければ,それを基に計算した電子密度分布に正のピークが離散的に現れ,深い谷は生じないはずだということが根拠となっている.電子密度を計算する際に各反射のフーリエ成分が重なり合って,単位胞中のどこかに正のピークが形成される.また,強い反射ほどその寄与が大きい.そのような考えから,次の3反射位相関係式が導かれた.( ) ? ( ) + ( ? )(6)? h ? k ? h kすなわち,exp{ i?( h)}? exp i?( k ) exp i? h?k{ } { ( )}(7)ここで,?は等しいと推定されることを表す.また,例えば反射hとkがそれぞれ311と101とすると,h-kは210である.このように指数が特別な関係にある3つの反射の組について,それらの強度が大きいほど上記の位相関係式(6)が成り立つ確率が高くなる.構造に対称心があると,(原子座標の原点を対称心にとることで)構造因子Fが実数となり,exp{ i?( h)} =±1(8)となる.つまり,Fの符号s(h)が正か負かという問題に単純化され,式(7)は次のようになる.s( h) ? s( k ) s( h ? k )(9)なお,直接法の計算では構造因子F(h)そのものではなく,規格化構造因子E(h)を用いる.これは原子の電子雲が広がりをもたず,静止した点であるような結晶の構造因子に相当し,|E(h)| 2の平均値が1になるように定義されている.まれる反射についての平均値を計算する.従来の直接法では,単位胞中の各元素の個数が既知であるものとし,ウイルソンプロットを基に平均の等方性変位変数ならびに式(2)のスケール因子Kを求めていた.このため,入力した化学式が不正確な場合,直接法の計算結果が影響を受けるという問題があった.SHELXTでは,sinθ/λの区画の強度の平均値をそのまま使って規格化構造因子を計算する.2.2古典的な直接法と双対空間法古典的な直接法では,選んだ少数の反射に対して位相セットを何十通りも,あるいは数多くの反射に対して位相セットを何百通りも発生させる.そして各位相セットについて,位相関係式を使って全体ができるだけつじつまが合うように位相を調整しながら拡張していく.一通り計算が終わったら,各種の指標を基に,一番有望そうな位相セットを用いてフーリエ合成を行う.基本的に,逆空間から実空間へのフーリエ変換は1回だけである.これに対して最近よく使われる双対空間法(dual-spacemethods)は,実空間と逆空間の双方で得られる情報に修正を加えながら,フーリエ変換および逆フーリエ変換を数多く(SHELXTではデフォルトで100回)くり返す方法である(図2).計算の出発点は逆空間でも実空間でもよい.つまり,逆空間において反射にランダムな位相を割り当てる代わりに,実空間において単位胞中にランダムに原子をまき散らしてもよい.ただし,逆空間では推定される位相関係式が成り立つはずであること,そして実空間では負の深い谷が生じないはずであることから,位相や電子密度に修正を加えながら収束させていく.なお,双対空間法のアルゴリズムの詳細については,ほかの解説を参照されたい.4)SHELXTでの双対空間法の出発点は,実空間におけるパターソン重ね合わせ最小関数である.これはパターソン関数の強いピークの中で原点からある程度離れているものを1つ選び,そのベクトルvにそって原点をずらしてパターソン関数を重ね合わせ,値の小さいほうを選んだものである(図3).ただし,実際には式(5)において|F| 2の代わりにE 3 Fを用いることで,先鋭化したパターソン関数を計算する.そして,原点を+v/2あるいは-v/2E ( h)22F ( h) ( h)= oε(10)2Foεθここで,ε(h)は平均強度係数であり,一般反射についてはほぼ1であるが,結晶の点群に依存してh0lなどの特別な型の反射に対して2や4などの値となる.3)式(10)の右辺の分母は反射hの強度の期待値に相当し,実際にはsinθ/λの測定範囲を細かく分割してそれぞれの区画に含日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)図2双対空間法.(Dual-space methods.)285