ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

ページ
16/66

このページは 日本結晶学会誌Vol59No6 の電子ブックに掲載されている16ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No6

日本結晶学会誌59,284-292(2017)SHELXL入門講座(5)SHELXTによる構造および空間群の決定慶應義塾大学自然科学研究教育センター大場茂Shigeru OHBA: Determination of the Structure and Space Groupby SHELXTSHELXT is a revolutionary program which solves the structureassuming space group P1, and determines the space group type based onthe assigned Laue group and calculated P1 phase angles. The backgroundand procedures of the computation will be summarized, and importantpoints to check the results will be noted.1.はじめに構造決定のプログラムSHELXTは2014年に正式にリリースされた.実はそれに先立ち3年にわたって200人を超える協力者により試運転が行われ改良がなされた. 1)SHELXTは低分子用の双対空間法プログラムであり,本来の空間群を仮定せずにP1として構造を解き,その後に空間群を導出するという画期的なものである(図1).従来は反射の消滅則から可能な空間群を絞り,順に直接法で試す方法をとっていた.このとき,空間群P2 1/cやP2 12 12 1などのように,消滅則から一義的に空間群が決まる場合はよいが,2~3種類の可能性がある場合や,反射が規則的に消えているか曖昧なときに,多少とも試行錯誤が必要であった.SHELXTの出現により,そのような手間をかける必要がなくなったのは喜ばしいことであるが,プログラムが何でもやってくれるおかげでブラックボックス化し,ユーザーにとって逆に不安だという声も聞こえる.作者1G. M. Sheldrickがその原理を論文)や学会で解説し,その資料もSHELXのホームページで公開している.2)しかし,それらの情報が日本ではまだ浸透していないのが実状である.そこで,今回はその理論的な背景ならびに計算過程の概略を述べ,プログラム使用上の注意を解説することにした.2.位相問題2.1構造を解く方法結晶構造解析の基本式を次に示す.( )結晶構造因子F ( k ) = F ( k ) exp i?( k )(1)回折X線強度I ( k ) = F ( k ) 2 K(2)1電子密度ρ( r ) =∑F ( k ) exp( ?2πik?r )k(3)Vここで,反射指数hklがベクトルkに,そして分率座標xyzがベクトルrに対応する.つまり,式(3)を書き直すと,1ρ( xyz)=∑F( hkl) exp ?2πi( hx+ky+lz)hkl{ }(4)Vとなる.式(1)からわかるように構造因子F(k)は一般に複素数であり,X線強度測定からはその振幅|F(k)|だけが得られ,位相?(k)の情報は失われる.したがって,どうにかして位相を推定しないと,式(3)から電子密度が計算できず,結晶構造がわからない.これを位相問題という.この位相問題つまり構造を解くための代表的な方法は,パターソン関数法と直接法である.(1)パターソン関数P( nvw)= 1 F( hkl) 2 exp ?2πi( hu+kv+lw)(5)V∑hkl{ }図1空間群をいつ判定するかの違い.(Difference whenthe space group is determined.)これは構造因子の位相がわからなくても計算でき,そしてそれは原子間ベクトルの集合に相当する.重原子を含284日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)