ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

ページ
14/66

このページは 日本結晶学会誌Vol59No6 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No6

山田悠介図2実験の階層構造(左)とXMLでの表現例(右).(Example of a hierarchy of beamline experiments(left)and its XML expression(right).)かったため,試料位置は固定されていることを仮定したデータベース構造であった.しかしながら,その後のピクセルアレイ型検出器の導入などにより,試料並進を伴う測定が一般的となりデータベースとしても対応が必要となったが,これまで蓄積を続けてきたデータベースの運用を止めることなく,データベース構造の変更を行うことができた.このように実験データを直感的に取り扱え,さらに運用後も柔軟に仕様を変更することが可能なXMLデータベースによって,筆者のようなデータベースに関する知識に乏しい非専門家でも十分に実用的なデータ管理システムを構築することが可能であった.2.3 PReMoによる回折データ自動処理RCM Systemのもう1つの大きな特徴は登録されたデータに応じて外部コマンドを実行する機能を有していることである.PReMoではこの機能を使用して回折データの自動処理を行っている.スナップショット測定時はLABELIT 2)を用いた回折イメージの評価,データ測定時はXDS 3)を用いた指数付け,強度積分と各種補正が行われる.XDSによる自動処理でも通常数分で完了するが,これら処理結果もデータベースに登録され,Webから閲覧であるため,ビームタイム中に測定したデータの妥当性を確認しながら実験を進めることが可能である.3.結晶化データベースの開発PF構造生物学研究センターでは,大規模な結晶化スクリーニングが可能な全自動結晶化観察システム(PXS)の開発も行っている.このシステムは96穴の結晶化プレートへの結晶化ドロップを作成する分注部,結晶化プレートを一定温度下で静置保管するインキュベータ部,複数の観察システムから構成される定期的な結晶化ドロップ観察を行う観察部,からなるが,このPXSの作成する結晶化プレートの分注情報および観察画像はPXS-PReMoと呼ばれるデータベースシステムで管理されている.このPXS-PReMoもRCM Systemを用いて開発されており,PReMo同様にPXS利用者はWebを介して各ウェルの結晶化条件や観察結果などを閲覧することが可能となっている.さらに,PReMoとPXS-PReMoとの間でデータの相互参照が可能であり,現在はBL17AでのIn-situ回折計を用いた結晶化プレート上の結晶からの直接X線回折測定について,その条件や回折イメージをPXS-PReMoから閲覧することが可能となっている.現在SBRCではPXSによって結晶化スクリーニングを行い,得られた結晶についてIn-situ測定で評価を行うというサービスを施設利用や創薬等先端技術支援基盤プラットフォームの支援課題へ提供しているが,この実現には上述のデータベース連携が必要不可欠なものであった.4.国内外の状況SPring-8ではメールイン測定のためWebデータベースD-Chaが開発されている.4)D-Chaは実験結果の閲覧のみならず,メールイン測定のための実験条件を細かに設定できることが特徴の1つとして挙げられる.国外の放射光施設では多くのビームラインでデータベース開発が行われている.ヨーロッパではISPyB 5)と呼ばれるデータベースがESRFを中心に開発がなされている.Soleil,DLS,MAX IV,BESY,DESY,ALBAといった主要放射光施設でも採用されヨーロッパでのデファクトスタンダードとなりつつある.自動データ処理のフレームワークであるEDNA 6)と強固な連携が取れているほか,BioSAXSでも使用されている7)のが大きな特徴と言える.アメリカでは各施設それぞれでデータベース開発が行われている.その中でもNSLS-IIではBluesky 8)と呼ばれるビームライン制御とデータベースとが統合されたフレームワークが施設共通基盤として整備されており,PXやBioSAXS以外のほかのビームラインでも使用されている.5.データベース開発の今後現在,われわれ構造生物学研究センターでは新しいデータベースシステムの開発に取り組んでいる.新しいシステムではこれまで培った経験を基に,より簡便かつ柔軟性に富んだデータベース構築が可能となることを目的としている.そして今後Bio-SAXSを始めとするさまざまな構造生物学実験もデータベース化し,データベース間の連携を取ることで,蓄積されたデータの活用も視野に入れた統合的な環境を構築していきたい.文献1)Y. Yamada, et al.: J. Phys. Conf. Ser. 425, 012017(2013).2)N. K. Sauter, et al.: J. Appl. Cryst. 37, 399(2004).3)W. Kabsch: Acta Cryst. D66, 125(2010).4)N. Okazaki, et al.: J. Synchrotron Radiat. 15, 288(2008).5)S. Delageniere, et al.: Bioinfomatics, 27, 3186(2011).6)M. F. Incardona, et al.: J. Synchrotron Radiat., 16, 872(2009).7)A. D. M Antolinos, et al.: Acta Cryst. D71, 76(2015).8)https://nsls-ii.github.io/bluesky/282日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)