ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

水牧仁一朗図2 YbNi 3Ga 9の温度-磁場-圧力相図.(Contour plot ofthe Yb valence in the temperature-pressure phase diagramof YbNi 3Ga 9.)等高線図は価数の温度圧力変化を表している.反強磁性秩序が発生する圧力Pc以上の圧力下で磁気相転移点(青色)を磁場温度相図にプロットしたものでPcよりやや低い圧力でのメタ磁性相転移が起こる点(赤色)をプロットしたもので,塗りつぶした赤点で相転移が終端している.5)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.ロピーに磁気的なものだけが関連する場合ではこのようにはならない.この起源の1つとしてYbの価数自由度に関するエントローが関連している可能性がある.また磁場中における磁化率がT -0.6に従う発散的振舞を示した.これらの結果は,Ybの価数ゆらぎ,すなわち4f電子の電荷ゆらぎが発散する臨界点で,スピンの一様なゆらぎを表す3)磁化率も同時に発散するという,臨界価数ゆらぎの理論が予言した新現象を直接観測したと考えられる.これらの実験事実は,価数クロスオーバー領域において磁場を加6)えると価数の一次相転移が誘起されるという理論予測とも一致しており,磁気転移点近傍に潜む価数の不安定性の存在を示す重要な結果であると考えられる.また,圧力を増加させたときT kの低下とともに温度による価数変化量が減少している.またA係数が圧力増加とともに増大していることから,門脇ウッズプロットを鑑みればA係数増大は電子質量γ増大を示唆し,それはT kの低下を意味する.つまり価数の温度変化量と4f電子系の重い電子的な振舞の一側面とが強い相関があることをこの実験結果は示唆する.そこで,価数温度変化とTkの相関が普遍的なものであることをほかのYb系金属間化合物でも見てみよう.図3にYbT 2Zn 20(T=Co,Rh,Os,7Ir)の相対価数温度変化)を示す.各化合物のTkはTがOs~Ir>Rh>Coと低くなるが,Tkが低くなるにつれて価数変化量が減少する.これはYbNi 3Ga 9の圧力変化とよく一致している.これはT kと価数変化量とに相関があることを示唆している.各化合物の価数は,下記に示すよく似た振舞を示した.1)低温(3~10 K)で温度に比例して増加.2)10~100 Kの間では,温度の対数に比例して図3 YbT 2Zn 20(T=Co,Rh,Os,Ir)の平均価数変化量の温度依存性.(Temperature dependence of Yb averagedvalence for YbT 2Zn 20(T=Co,Rh,Os,Ir).)3価に近づく.3)100~200 Kの間で緩やかにピークをもち,それより高温で2価に近づく.1)から2)への移り変わりの温度は,各化合物のTKに近い.この振舞は,大槻8らの報告)によれば,近藤効果が起源と考えられる.価数の温度変化の様子は,TKと測定温度範囲によって関係が変化している.また結晶構造の異なるYbTCu 4(T=Cd,Ag,Cu)やYbT 2X 2(T=Cu,Ni,Rh,Pd:X=Si,Ge)においても同様の温度変化が見られている.今後さらに広い温度範囲で測定を行うことで,TKによって温度をスケールすれば価数の温度変化の普遍性を見ることが可能となるはずである.本稿でご紹介した2つの研究結果は,高エネルギー分光の新しい利用法を示している.電子数は秩序相の秩序変数とは異なるが,その電子相の特徴を表す物理量である.今回の測定は,その物理量の変化を磁場-温度や圧力-温度相図上に描くことで,非従来型の量子臨界現象や近藤効果といった強相関電子系物理の重要なテーマに新たな側面を見出すものである.XAS測定は非常に簡単な測定だが,このように新たな展開を見せている.読者の方々のご研究の一助になれば,望外の喜びである.本研究は,電気通信大学の松林和幸准教授,九州工業大学の渡辺真仁准教授との共同研究で,SPring-8長期利用課題(2012B0046-2015A0046)にて行われた.科研費基盤研究B(15H03697)による研究助成の下で行われた.また長期利用課題のメンバーをはじめとして,本研究をご支援いただいた多くの方々に,深く感謝申し上げる.文献1)O. Trovarelli, et al.: Phys. Rev. Lett. 85, 626(2000).2)S. Nakatusji, et al.: Nature Phys. 4, 603(2008).3)S. Watanabe, et al.: Phys. Rev. Lett. 105, 186403(2010).4)河村直己:高圧力の科学と技術25, 38(2015).5)K. Matsubayashi, et al.: Phys. Rev. Lett. 114, 086401(2015).6)S. Watanabe, et al.: Phys. Rev. Lett. 100, 236401(2008).7)M. Mizumaki, et al.: private communication.8)J. Otsuki, et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 85, 073712(2016).280日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)