ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

ページ
11/66

このページは 日本結晶学会誌Vol59No6 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No6

日本結晶学会誌59,279-280(2017)最近の研究動向X線分光法による価数揺動現象およびそれを起源とする量子臨界現象の機構解明(公財)高輝度光科学研究センター水牧仁一朗Masaichiro MIZUMAKI: Mechanism for Valence Fluctuation and Valence FluctuationInduced Quantum Criticality Studied by X-ray Spectroscopy温度や圧力や磁場など外場を変化させたとき,希土類イオン(Ce,Sm,Eu,Yb)を含む金属間化合物において価数揺動現象が起こることはよく知られている.ここで,価数揺動現象とは,外場によりエネルギーを系に与えたとき価数が変化することと定義する.この価数自由度は重い電子的振舞や量子臨界現象などと強く相関し,希土類金属間化合物の物性の振舞を決める重要な役割を果たしている.近年,YbRh 2Si 2,1)2α-YbAlB)4と相次いでYb系金属間化合物において,磁性を消失させる近藤効果と磁性の発現を促すRKKY相互作用の競合より磁気量子臨界現象とは異なった,価数揺らぎを起源とする非従来型の量子臨界現3象が発見され,その微視的な理論)も発展している.このような背景のもと4f希土類イオンの価数の直接的な評価が求められていた.価数の直接的な評価法にはX線吸収(XAS)・発光分光法があげられる.これらの測定は,価数による吸収端エネルギーが異なり,各価数のピーク積分強度の比が平均価数比に比例することを利用して平均価数を直接的に評価している.近年,強磁場・高圧力・低温下でのX線吸収・発光分光測定技術の発展により,4)外場パラメータの広範囲での価数を評価が可能となり,価数の評価精度も非常に高く0.005程度までの価数分解能を有する.本稿では,価数揺動物質であるYbNi 3Ga 9を例にとり,Yb価数とその物性を圧力-温度-磁場相図上で比較することにより非従来型の量子臨界現象について議論する.ンを使用した.図1にYb-L 3端でのXASスペクトルとそこから求めたYbイオンの平均価数の圧力温度依存性を示す.XASスペクトルは2つのピークからなり,低エネルギー側が2価で高エネルギー側が3価である.これらのピーク積分強度の比をとり平均価数を評価した.5)温度とともに低価数になること,圧力を加えるとともに3価に近づくことがわかる.9 GPaを超えたあたりで2.8価となり,価数の温度変化が顕著ではなくなる.それとともに反強磁性的な磁気秩序が発生する.さらに,高圧・磁場下での交流磁化率測定を行い,圧力誘起磁気秩序が出現する圧力よりもわずかに低圧側の常磁性金属相において,メタ磁性が発現することを発見した.メタ磁性転移において,磁場依存性にヒステリシスが存在し,一次相転移であることを示唆していた.その相転移温度は磁場が増大とともに低下し,0.7 Teslaで臨界点をもって終端することを発見した(図2).この相線に対してClausius-Clapeyronの関係式を適用すれば,相線は負の傾きをもっているため,弱磁場相のエントロピーが高磁場相のそれより小さい.エントYbNi 3Ga 9は,常圧において非磁性金属で高い近藤温度T K(=570 K)をもつ.またYbのイオン価数は2価(非磁性)と3価(磁性)の中間価数をとるが,圧力を加えることで3価へと近づき磁気秩序が誘起される可能性がある.さらには量子臨界的な振る舞いも期待される.そこでわれわれは,高圧・低温下での物性測定とXAS測定を行った.高圧力下XAS測定はSPring-8のBL39XUにて行った.用いた吸収端はYb-L 3端である.温度・圧力範囲はそれぞれ,3~300 K・常圧~16.1 GPaである.圧力発生はダイヤモンドアンビルセルを用い,圧媒体にはグリセリ日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)図1YbNi 3Ga 9のYb-L 3吸収端におけるXASスペクトルおよび平均価数の温度・圧力依存性.5)(XASspectra of YbNi 3Ga 9 for Yb L 3-edge and pressure- andtemperature dependence of averaged valences.)279