ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No6

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概要

日本結晶学会誌Vol59No6

志村玲子十二面体,となるような殻(シェル)構造ユニットを見出すことができた.従来より,[i]中心原子(有りor無し)→[ii]Al正二十面体→[iii]遷移金属正二十面体→[iv]Al二十・十二面体で構成される規則的なシェル構造はマッカイクラスター(MC;Mackay Cluster)と呼ばれ,I相準結晶の正二十面体対称クラスターのひとつとして注目されてきた.今回われわれが解析した近似結晶相に観測されるクラスターは【type A】と【type B】両者とも,シェル[ii]の対称性の乱れに特徴があり,われわれは,この新しいクラスターを擬マッカイクラスター(pMC;pseudo MC)と呼んでいる.pMCの空間配置からも学べることがある.隣接するpMCでは,シェル[iii](遷移金属正二十面体)同士が互いに稜共有し(図4b),その外側に位置するシェル[iv](Al二十・十二面体)は互いに貫入している(図4c,d).さらに,シェル[iv](Al二十・十二面体)の頂点原子が,隣接するpMCのシェル[ii]の構成原子に該当していることを考慮すると(図4e,f),シェル[ii]のAl配列はpMCの連結様式と密接に関連していることがわかる.逆にpMCに観察できるシェル[ii]の乱れは,pMCの連結様式のバリエーションを示していることになる.また,複数のpMCが連結された際に生じる隙間は,前述したAl正二十面体(2)が埋めており,同時にこの正二十面体は,pMCのシェル[iv](Al二十・十二面体)と面共有している(図4c).これらの合金系で見出される遷移金属正二十面体はMCやpMCのシェルを構成するだけでなく,周辺のAl原子の配置次第ではMCやpMC以外のクラスター構造の一部として理解できる場合もある.例えば図1に示すC相では,遷移金属フレームワーク中に2種類の遷移金属正二十面体が観察できる.一方はpMCとして理解できるが,もう片方は,中心原子→Al正二十面体→正十二面体(ただし,頂点はかなり変形した遷移金属正二十面体の12個の頂点原子と8個のAl原子)のシェル構造をもつバーグマンクラスターの内側部分(mBC;miniBergman Cluster)としても理解できる.6)すなわち,C相の結晶構造は,「pMCとAl正二十面体の組み合わせで構成されている」と考えることができると同時に,「pMCおよびmBCのパッキングで構成された結晶構造」と考えることもできる.以下に,C,C1,C2,FおよびR相近似結晶の構造的特徴をまとめる.[I]Al 70 mol%前後の近似結晶の構造は,遷移金属原子のフレームワークとその隙間に充填されるAl原子の図4 R相の擬マッカイクラスター(pMC)の連結.(Linkageof pMCs in the structure of R-phase.)★で示した原子は隣接pMCに貫入している頂点原子,☆は隣接pMCと共有している頂点原子を示す.分布を特徴とする.[II]近似結晶は,MCおよびpMCの配列そして隙間に位置するAl正二十面体の配列として理解できる.[III]MCおよびpMC構造は,その連結様式に伴い主としてシェル[ii]の原子配列にさまざまなバリーションが生み出される.このようにMC,pMCおよびmBC(Al正二十面体ユニット)の配列の特徴に基づいて準結晶や近似結晶の構造を整理すれば,複雑な原子配列の構成をより明快に理解することが可能である.そして,中心原子とシェル[ii]の幾何学的バリエーションを特徴とする擬マッカイクラスターが準結晶組成の多様性を担保していると判断できる.文献1)B. Grushko and T. Velikanova: Calphad 31, 217(2007).2)R. Simura, K. Sugiyama, S. Suzuki and T. Kawamata: Mater. Trans.58, 1101(2017).3)K. Sugiyama, K. Hiraga and K. Saito: Mater. Sci. Eng. 294-296, 345(2000).4)S. Mahne and W. Steurer: Z. Kristallogr. 211, 17(1996).5)R. Simura, S. Suzuki, K. Yubuta and K. Sugiyama: Mater. Trans. 54,1385(2013).6)N. Fujita, H. Takano, A. Yamamoto and A. -P. Tsai: Acta Crystallogr.A 69, 322(2013).278日本結晶学会誌第59巻第6号(2017)