ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

キナーゼを標的とした構造生物学および創薬の現状図5 p38 mitogen-activated protein(MAP)キナーゼのDFGin構造(PDB: 3dt1)およびDFG-out(PDB: 3hec)構造.(DFG-in and DFG-out configurations of p38mitgen-activated protein kinase.)両構造間で,DFGモチーフのアスパラギン酸とフェニルアラニンが反転している.DFG-in構造でフェニルアラニンのベンゼン環が結合する領域に,DFG-out構造では阻害剤のベンゼン環が結合している(点線で囲んだ部分).とDFG-1はATP結合に直接関与せず,ポケット奥にある疎水性空間の形状を決めている(図4).ここで518通りの多様性を見出すことができないが,標的キナーゼに運良く特徴的な構造を利用できれば,エルロチニブなどのように医薬品にまで到達する.エルロチニブの標的分子となるepidermal growth factor receptor(EGFR)には,gatekeeperとDFG-1がともに立体的に小さいトレオニンであるために,ATP結合部位奥の疎水性空間が広くなっている.X線結晶構造解析により,エルロチニブの特徴的な官能基アセチルベンゼンが,この特徴的な疎水性空間にぴったりと収まっていることが明らかにされている.6)Type-II阻害剤は,Type-Iの領域およびDFG-out構造に出現する疎水性空間を利用して結合する.自己阻害構造の1つであるDFG-out構造は,DFGモチーフのアスパラギン酸とフェニルアラニンの反転により形成される(図5).このアスパラギン酸は活性に必須となる金属イオンを固定する役割があり,反転により機能不可となる.一方,通常のコンホメーションDFG-in構造で分子内部に向いているフェニルアラニンは,DFG-out構造では分子表面に反転する.このため,DFG-in構造でフェニルアラニンのベンゼン環が占有していた疎水性空間が露出する(図5).この領域はDFG-out領域と呼ばれ,図4に示すATP結合部位奥の疎水性領域から連続的に繋がっている.これら2つの領域の多様性が高いことから,Type-II阻害剤はType-I阻害剤に比べて高選択性であることが期待できる.抗ガン薬イマチニブは典型的なType-II阻害薬に分類される.Type-III阻害剤は,Type-IIのDFG-out領域などType-I部位の近縁領域のみを利用する.Type-III阻害剤は多様性の高い領域のみに結合することから,さらなる高選択性が期待できる.Type-IV阻害剤は酵素反応中心から離れたアロステリック部位を利用する.これはキナーゼの日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)図6 epidermal growth factor receptor(EGFR)とα,β不飽和ケトンを有する阻害剤の結合様式(PDB: 5fed).(Binding mode ofα,β-unsaturated ketone inhibitorswith epidermal growth factor receptor(EGFR).)システインのイオウ原子がα,β不飽和ケトン基の4位にマイケル付加反応して共有結合を形成する.基質認識や活性制御などにかかわる領域であり,DFGout領域とは重複しない多様性がある.Type-II,-III,-IV阻害剤はキナーゼの活性制御機構と密接な関係があり,詳細は第4章で解説する.Type-V阻害剤は,基質タンパク質のリン酸化部位が結合するA-loop後半近傍を起点とし,ATP部位までをカバーするものと定義される.A-loopはSTKとTKでコンホメーションに違いがあるものの,ともに基質のリン酸化部位とβシート構造を形成する.つまり,ペプチド基質の認識はカギとカギ穴のような関係ではないために,この周辺に結合する低分子阻害剤の分子設計は難しい.得られる低分子阻害剤は活性が弱くなりがちであり,十分な活性を得るためにATP部位に結合する部分構造を付加したものが多い.このため,分子量が大きくなる傾向にある.一方,基質タンパク質のリン酸化部位周辺のアミノ酸配列を参考にペプチド性阻害剤が設計できるが,これは結合によるエントロピーロスが大きくなるため,活性が弱いものが多い.さらには体内のプロテアーゼにより分解されるという課題もある.いずれの場合においても,Type-V阻害剤が医薬品となるには細胞内移行など,まだまだ克服すべき課題が多い.近年,共有結合型阻害剤が注目される(図6).7)ATP結合部位周辺にあるシステインと共有結合を介して阻害活性を示す,アファチニブなどが上市されている.結合候補となりうるシステインは,P-loop,gate keeper周辺,hinge領域,DFGモチーフ周辺に散在しており,すべてのキナーゼに保存された位置はない.ここでは,筆者らのmitogen-activated kinase kinase 7(MAP2K7)の研究成果を紹介する.MAP2K7は上の条件を満たすシステイン177