ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

木下誉富局在を担うドメイン,あるいは自己阻害構造を制御するドメインなどが含まれる.また,ドメイン構造ではなく,サブユニットが上述の機能を担う場合がある.これらドメインまたはサブユニットにより,同じ化学反応を触媒する518種の酵素が生体内で区別され,決まった基質タンパク質だけをリン酸化することを可能にする.ところが,キナーゼ創薬の研究には,結晶化の成功確率を上げるため,かつ,化合物の主たる結合部位であるために,キナーゼドメインを切り出して実験することが多い.それ以外の領域が構造の安定化に寄与している場合があるので注意が必要である.例えば,恒常的に活性を示すcasein kinase 2(CK2a1)のキナーゼドメインのN末端領域は,アミノ酸配列から天然変性領域と予測されるが,X線結晶構造はこの領域がA-loopを活性構造であるβストランド構造に固定する役割があることを示唆する.3)実際に,CK2a1はこの領域を除去するとキナーゼ活性を完全に失う.したがって,研究対象とするコンストラクトは酵素活性を指標にするなどしながら,慎重に決める必要がある.3.キナーゼ阻害剤の結合様式による分類2017年3月現在,キナーゼ/阻害剤の複合体について2,800種を超えるX線結晶構造がPDBに登録されており,キナーゼを標的とした創薬研究に役立てられている.キナーゼ阻害剤はその結合様式により,Type-I,-II,-III,-IV,-V,さらに別枠として共有結合型に分類される(表1).4)Type-I阻害剤は,ATP結合部位とその近縁のみに結合するものと定義され,古くから研究されていることもあり,最も報告例が多い.ATPはN末端lobeとC末端lobeの間にある奥深い疎水性ポケットに結合する.カギ穴に合わせてカギを設計するようなことになり,ATP結合部位をターゲットとした阻害剤設計は比較的イメージしやすい.しかしながら,すべてのキナーゼにおいてATPを認識する方法はほぼ保存されており,このことが阻害剤に高選択性という性質を付与することを難しくする.ATPのアデニン部分はhinge領域のペプチド主鎖と水素結合し,リン酸基は活性制御リシンおよびDFGモチーフのアスパラギン酸で固定された金属イオンと静電的相互作用を形成している.必然的にこの周辺に結合するType-I阻害剤の選択性は低くなる.ノーベル賞学者,大村智博士らが発見した,典型的なType-I阻害剤であるスタウロスポリンは,種々のキナーゼとの複合体構造において共通の結合様式で結合することがわかっており,実際に,ほとんどのキナーゼに阻害活性を示す.とはいえ,ATP結合部位の奥とその外縁部についてはまったく同じではなく,構造の詳細な比較分析から高選択性阻害剤の開発が進められている(図4).5)ATPを上下から挟みこんでいる5つの疎水性アミノ酸,β5ストランド上のgate keeper残基およびDFGモチーフの1つ前のアミノ酸(DFG-1)はキナーゼ間で多様性があり(図4),高選択性を得るための大きなヒントとなりうる.とくにgate keeper表1キナーゼ阻害剤の分類.(Classification of kinaseinhibitors.)タイプ作用部位医薬品Type-IATP結合部位ゲフィチニブ,エルロチニブType-IIATP結合部位,DFG-out領域イマチニブ,ニロチニブType-IIIDFG-out領域などATP部位以外トラメチニブType-IVアロステリック部位-Type-Vペプチド基質部位+ATP部位-Covalent ATP結合部位辺縁のすべてアファチニブ,イブルチニブ図4Type-I阻害剤の結合部位の多様性.(Variety of type-I inhibitor binding sites.)右図は左図から紙面横方向を軸として90度回転している.ATPのプリン環はhinge領域と水素結合を形成し,上下から5つの疎水性アミノ酸が挟むようにして相互作用している.Gate keeperおよびDFG-1残基の種類によって,プリン環の奥にある疎水性領域の形状を決める.この領域は多様性が高く,選択性阻害剤創出のカギとなる.176日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)