ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

H. D. FlackのX線結晶学に対する貢献図1H. D. Flack(ECM18, 1998).りんごの不斉2分割を示している.Image by W. L. Duax cIUCr, used undera Creative Commons CC-BY licence.図2空間群の分類.(Classifications of space groups.)[出典:International Tables, Vol.A(2002), Fig. 8.2.1.1を改変]1.5極性軸の原点抑制対称心のない構造は極性軸をもち,その軸方向の座標の原点は任意にとれる.かつては,構造中の1つの原子の座標を原点に選んで固定するという手段が取られていたが,それでは不都合な点があった.そこでFlackらは,極性軸方向の座標を,抑制をかけながら精密化する方法を開発した.例えば極性軸がc軸の場合に,化合物の重心のz座標が動かないように抑制することで,原子のz座標間の相関が小さくなり精密化しやすくなること,ならびに特定の原子の座標を固定した場合と比べて各原子の座標の標準偏差が同等に求まるというメリットがあることを示した. 19)この極性軸の原点抑制の方法は,現在標準的(そして自動的)に使用されている.2.空間群図3ブラベ格子の相互関係.(Relationships between theBravais types of the lattice.)a:三斜,m:単斜,o:直方,t:正方,h:六方,c:立方.上位にある格子の対称性が低下したとき,どの格子の型になるかを示す.[出典:Grimmer 21)]2.1空間群の分類P2 1などを,キラルな空間群というのは誤りである.分子構造,結晶構造,そして空間群についての対称群はそれぞれ点群,空間群,ユークリッド正規化群(Euclideannormalizer)である.空間群P2 1の対称要素の配列をある1点の周りで反転させても,元と同じで区別が付かないからキラルではない.6)Flackは2015年の論文で,230の空間群の分類におけるブラベ格子の位置付けについてInternational Tables Vol. AのFig. 8.2.1.1を再録して示しながら紹介している. 20)筆者(大場)にとって,菱面体格子や三方と六方晶系の扱いが結晶学の本によって異なることで判然としない点が気がかりであったが,実はすでに明快な分析がInternational Tablesに示されていたのであった.それを和訳して図2に示した.7つの晶系は結晶構造のもつ対称性による分類である.その一方で,14のブラベ格子は格子点の配列の対称性に基づく別系統の分類であり,それらは上に位置する6つのcrystal family(晶科,日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)ただしこの和訳が定着しているわけではない)から分岐したものである.晶科とはブラベ格子の型あるいは晶族が同じである空間群を仲間とみなし,仲間の仲間は皆仲間としたときの空間群の集合をさす.それにより,六方と菱面体の2つの格子系,そして三方と六方の2つの晶系はすべて六方晶科として統合される.通常,単に晶族(あるいは点群)という場合は幾何学的晶族(32種類)をさし,単純格子か複合格子かは区別しない.もし,それを区別した場合は算術的晶族(73種類)という.219のアフィン空間群とは,対称操作の配列を反転させたときに同じものは1つとみなす分類であり,例えばP4 1とP4 3を1つと数えるため,230から11だけ少なくなっている.文字どおり空間群の対称性を考慮した場合,キラルな空間群と呼べるのは,これら11組の空間群だけなのである.20なお,この論文)では,Grimmerの論文21)を絶賛し紹介している.それには,14のブラベ格子の対称性の上下141