ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

ページ
46/60

このページは 日本結晶学会誌Vol59No1 の電子ブックに掲載されている46ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No1

クリスタリット量は比例関係になるため,吸収スペクトルの代わりに蛍光X線を測定することでXAFSを測定することができる.蛍光X線を測定することで,低濃度サンプルのXAFSを得ようとする手法が蛍光XAFS法である.その検出限界は散乱X線が主成分であるバックグラウンドの大きさで決まる.散乱X線を,X線フィルター,半導体検出器や結晶分光器で除去することができるので,現在ppmからppbの低濃度の測定が可能になっている.(北海道大学触媒科学研究所朝倉清高)XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)X線吸収スペクトルにおいて,急激に吸収係数が増大する吸収端が元素固有のエネルギーで現れる.この吸収端は内殻電子が光電子として飛び出すために生じる.この吸収端より高エネルギー側に現れる構造をXAFSと呼ぶ.XAFSは飛び出した光電子が周辺の原子により干渉することで現れる現象であり,吸収原子周辺の局所構造(結合距離,配位数,熱的振動,結合原子)の情報を与える.対象が結晶であることを要求せず,アモルファス,溶液,気体,ナノ粒子など形状に関係なく測定できる.また,X線の高い透過力により,雰囲気の制限が少なくOperando分光法としても応用されている.(北海道大学触媒科学研究所朝倉清高)DXAFS(Dispersive XAFS)X線吸収スペクトルを測定する方法の一つ.平行な白色X線を湾曲した結晶に照射すると,結晶の場所ごとで入射角が異なり,Bragg反射する波長が変化する.こうして,波長情報を経路情報に変換し,試料上の一点に集め,再度分散させ,位置感検出器で検出することで,全領域のX線吸収スペクトルを一気に測定する手法である.XAFS信号を得る場合にはDXAFSと呼ばれる.放射光のようなパルスX線を用いた場合には,パルス幅の時間分解能が達成できる.(北海道大学触媒科学研究所朝倉清高)蛍光XAFSFluorescence XAFSXAFS法は通常透過X線を測定し,Lambert Beer則に従い,吸収係数を求めるが,濃度が低いときには,バックグラウンドが大きくなり,吸収係数を正確に測定できなくなる.一方,濃度が低くなると吸収係数と蛍光X線オージェ過程Auger ProcessX線の吸収などにより,比較的原子核に近い電子軌道に空孔ができると,外側の軌道の電子がこの空孔に遷移することにより,エネルギー的に安定な状態になる.このとき,準位間のエネルギー差に等しいエネルギーを原子内のほかの電子に与えて非放射的に遷移し,その際にエネルギーを与えられた電子が放出される過程をオージェ過程と呼ぶ.(東北大学多元物質科学研究所上田潔)クーロン爆発Coulomb Explosion分子やクラスターが多重にイオン化すると,分子やクラスターを構成する原子は正に帯電し,原子イオン間のクーロン反発力によりバラバラになって飛び散る.この現象をクーロン爆発と呼ぶ.(東北大学多元物質科学研究所上田潔)パルスジェット原子線・分子線Pulsed Jet Atomic Beam/Molecular Beam気相の原子や分子を高真空中に導入する際,比較的高圧下の気体ガスを小さな径のピンホールから真空槽内に噴出させることで,速度の揃った粒子ビームを得ることができる.これをジェット原子線・分子線と呼ぶ.ジェット原子線・分子線中ではほとんど衝突がないことから,単独の気相原子・分子やクラスターの実験に理想的な環境である.パルスジェット原子線・分子線は,ジェット原子線・分子線をパルス化したもので,真空度を悪化させることなく粒子の密度を高めることができるので,自由電子レーザーのような繰り返し率の低い励起源と組み合わせた実験に有効である.(東北大学多元物質科学研究所上田潔)40日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)