ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

米田仁紀3.次のステップ3.1結晶を保ったX線レーザーへこれまでのところで,XFEL励起レーザーなど光学領域で行われている量子光学的な現象のかなりのものを,硬X線でも原理実証できてきていることをわかっていただけたと思う.ちなみに,この領域で教科書の1つに挙げられているA. Yarivの“Quantum Electronics”の章立てと比較してみると,すでに3~4割程度のものが達成されていることがわかる.では,次のターゲットは何か?レーザーや量子光学現象の1つの特徴は,波長が固体の原子間距離程度になり,その発光時間も1 fs前後におさまりながら,ΔE/E~10-4程度の狭窄化で相互作用が実現できることにある(可視域で1 fsを達成しようとすると,フーリエの関係からΔE/E~1程度になってしまう).利得が十分発生している状態での原子当たりのエネルギー付与は1 keV以上であるので,照射後十分時間が経てばイオン化し,膨張,飛散する状態である.しかし,この短パルス性のために原子位置が保たれ,バンド構造すら保たれているような状況で,さまざまな量子光学効果を実現できている.この状況を改めて考えてみた結果,次なるステップは結晶格子を使ったブラッグ回折型波長選択レーザーだと目論んでいる.よく知られているように,光学波長領域では半導体技術を駆使し媒質内にサブμm周期構造を作ることによって,DFBL(distributed feed back laser)などの特徴あるレーザーが作られている.しかし,ここで紹介した硬X線を使えば,結晶格子そのものを活かした波長選択・変調レーザーが可能となる.さらにそれらに,電流駆動,光照射,化学反応などといった手法で3d電子を制御させていけば,8~10 keVという硬X線でありながらわずかな作用でそのスペクトルを人工的に変化・変調させることができるはずだと考えている.そうなれば,「ハードX線フォトニクス」と総称できる研究が立ち上がることであろう.4.まとめ2009年に米国で,2011年に日本で相次いでXFELが発振し,多くの新しい研究が立ち上がった.その中で,本質的に変化が起きている現象の1つに硬X線領域での量子光学研究がある.その中でも特にXFEL励起X線レーザーの研究成果を紹介するとともに,次のステップを予想してみた.そのうちFEL側でも,レーザー加速などの手法が取り入れられて,コンパクトなものが出てくるだろう.そうすると,ここで予想した研究も大学の一研究室レベルでできるようになり,さらには産業を中心に応用分野でも利用できるようになる.既存の知識からの外挿も十分利用でき,その差を楽しむこともできると思う.この分野は,そんな楽しい状況にある.文献1)P. Emma, et al.: Nature Photon. 4, 641(2010).2)T. Ishikawa, et al.: Nature Photon. 6, 520(2012).3)H. Kitamura: Eur. Phys. J. D 52, 147(2009).4)H. R. Varma, M. F. Ciappina, N. Rohringer and R. Santra: Phys. Rev.A 80, 053424(2009).5)K. Tamasaku, et al.: Nature Photon 8, 313(2014).6)S. Shwartz, et al.: Phys. Rev. Lett., 112, 163901(2014).7)R. C. Elton: X-ray Lasers(Academic, 1990).8)H. Mimura, et al.: Nature Commun. 5, 3539(2014).9)H. Yoneda, et al.: Nature Commun. 5, 5080(2014).10)N. Rohringer, et al.: Nature 481, 488(2012).11)H. Yoneda, et al.: Nature 524, 446(2015).12)T. Hara, et al.: Nature Commun. 4, 2919(2013).13)M. Deutsch, et al.: PHYSICAL REVIEW A 51, 283(1995).プロフィール米田仁紀Hitoki YONEDA電気通信大学レーザー新世代研究センターInstitute for Laser Science, University of Electro-Communications〒182-8585東京都調布市調布ヶ丘1-5-11-5-1 Chofugaoka, Chofushi, Tokyo 182-8585, Japane-mail: yoneda@ils.uec.ac.jp最終学歴:東京工業大学専門分野:レーザー科学現在の研究テーマ:X線フォトニクス,高エネルギー密度科学,高出力レーザー開発,実験室天文学,高精度光学素子開発など38日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)