ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

米田仁紀これらの数字を鑑みれば,このようなさまざまなメリットがある量子光学的効果を硬X線で起こさせる鍵となるのは,強いX線場の生成であることがわかる.日本のXFEL施設SACLAではYamauchi,Mimuraらが50 nm集光を実現しており,8)X線量子光学研究の中心となる施設と位置付けられている.図2 XFELを照射された後の原子の緩和過程.(Relaxationprocess after inner shell excitation of atoms.)上は通常状態の原子で,例えばCuの場合,Auger電子放出:Kα1蛍光放射:Kα2蛍光放射=61:26:13となっている.下図は,Kα2線に共鳴した十分強いレーザーがある場合,緩和過程はほぼ1つの分岐に集中させることができる.2.XFEL励起原子準位レーザー2.1達成された最狭窄化レーザー2009年に米国で,2011年に我が国で,XFELが初めて発振して以来,これまでに(1)可飽和吸収, 9)(2)光励起導波路, 9)(3)XFEL励起Kα線レーザー10),11)が達成されている.特に,Kα線レーザーでは,図3に示されるような,シード化され狭窄化されたX線レーザーまで実現されている. 11)これらには,FELのもう1つの特徴である非共鳴な波長のチューナビリティが活かされている.FELでは,加速された電子ビームをアンジュレータと呼ばれる周期磁場構造をもった部分に通し,コヒーレントな光を発生させているが,その条件を変えることで1つの電子ビームから異なる波長の2つの光を発生させることができる.SACLAでは,この技術を用いてX線領域で1 keV以上離れた2色を発生させることが可能で, 12)1つを内殻電子が励起できる波長に,もう1つはその内殻電子励起後のK殻空孔のL殻電子が緩和する蛍光波長に合わせることで,シード化を実現させた. 11)図3では,その制御されているKα線レーザーのスペクトルを示しているが,通常その統計重率で決まる強度比(2:1)で発生するKα1線とKα2線をそれぞれ単独で発生できることが示されている.この図では,さらにシード化によって,半値幅で1.7 eVの狭窄化X線レーザーを実現できることが明らかにされている.この値は,ターゲットとして用いたCuのKα線の自然放出寿命で決まる自然幅よりも狭いスペクトル幅であり,原子系の遷移過程を制御した1つの証拠となっている.2.2発振スペクトル変化次に,励起強度に伴う利得スペクトルの変化を計測した結果を図4に示す.この場合,前節で述べたシード化は行わず,ASE(AmplifiedSpontaneousEmission)と呼ば図3 Kα線レーザーの発振スペクトル.(Spectrum of Kαlaser with and without seeding.)左図はシードをかけていない状態で,半値幅が約5 eVのKα1線のみのスペクトルになっている.通常の自然放出のKα線では図2の上図のようにKα1線とKα2線が2:1の強度比で両方現れるがここでは1本になっている.右図はシードをかけた時の発振スペクトルで,シードの波長によりKα1線かKα2線を選択できている.半値幅は1.7 eVで自然寿命の自然幅を超えた狭いスペクトルが実現されている.36日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)