ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

SACLAの高強度X線照射下の原子・分子の動的振舞いの方々にご協力いただきました.本研究は,文部科学省のX線自由電子レーザー利用推進研究課題とX線自由電子レーザー重点戦略研究課題,理化学研究所SACLA利用装置提案課題の援助を受け行われました.文献図8平均サイズ1000のアルゴンクラスターからの電子スペクトル.(Electron spectra of Ar cluster withaverage size of 1000.)文献20)より修正して転載.ことがわかった.このことはクラスターに生じた強い正の電荷により電子が減速されていることを示している.さらに電子が減速されると,クラスターから飛び出せなくなり,ナノプラズマが生成される.その後,一度は束縛された電子も蒸発するように放出されることがあり,エネルギーの増加とともに単調に収量が減少する低エネルギー電子として観測される.図8に見られるゼロエネルギー付近の低エネルギー電子は,ナノプラズマの生成を示唆するものである.また,観測結果をよく再現する理論計算から,X線照射によって放出される電子の中でも比較的低エネルギーの電子とクラスター内の原子との衝突により放出される二次電子がナノプラズマ生成に主に寄与していること,ナノプラズマは10フェムト秒のオーダーで形成されること,低エネルギー電子はナノプラズマの膨張に伴ってピコ秒の時間スケールで放出されることもわかった.二次電子放出は物質にX線を照射した時にごく一般的に起こる現象であるため,ナノプラズマもまたXFEL照射された物質からごく一般的に生成されると考えられる.すなわち,ナノプラズマを理解することはXFEL利用研究には不可欠なのである.5.今後の展望本稿ではSACLAで供給される超強力X線を気相原子・分子・クラスターに照射した時に観測される特徴的な動的振舞いについて紹介した.現在は,ここに紹介した超強力X線が誘起する動的振舞いを,光学レーザーを用いて時分割測定することを試みている.このような研究を通して,超強力X線と物質の相互作用を正しく理解することができれば,SACLA利用研究の基盤整備にも貢献できると考えている.謝辞本研究の遂行には,永谷清信博士(京都大学),和田真一博士(広島大学)をはじめ,文献15)~21)の共著者日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)1)P. Emma, et al.: Nat. Photon. 4, 641(2010).2)T. Ishikawa, et al.: Nat. Photon. 6, 540(2012).3)H. N. Chappman, et al.: Nature 470, 73(2011).4)M. M. Seibert, et al.: Nature 470, 78(2011).5)L. Redecke and K. Nass, et al.: Science 339, 227(2013).6)K. Hirata, et al.: Nat. Methods 11, 734(2014).7)S. Suga, et al.: Nature 517, 99(2014).8)T. Kimura, et al.: Nat. Commun. 5, 3052(2014).9)A. Zewail: J. Phys. Chem A 104, 5660(2000).10)R. Mankowsky, et al.: Nature 516, 71(2014).11)K. Kim, et al.: Nature 518, 385(2015).12)Ph. Wernet, et al.: Nature 520, 78(2015).13)K. Tamasaku, et al.: Nat. Photon. 8, 313(2014).14)H. Yoneda, et al.: Nature 524, 446(2015).15)H. Fukuzawa, et al.: Phys. Rev. Lett. 110, 173005(2013).16)K. Motomura, et al.: J. Phys. B 46, 164024(2013).17)K. Motomura, et al.: J. Phys. Chem. Lett. 6, 2944(2015).18)K. Nagaya, et al.: Phys. Rev. X 6, 021035(2016).19)K. Nagaya, et al.: Farad. Discuss.(2016), DOI: 10.1039/C6FD00085A.20)T. Tachibana, et al.: Sci. Rep. 5, 10977(2015).21)H. Fukuzawa, et al.: J. Phys. B 49, 034004(2016).プロフィール福澤宏宣Hironobu FUKUZAWA東北大学多元物質科学研究所Institute of Multidisciplinary Research for AdvancedMaterials, Tohoku University〒980-8577宮城県仙台市青葉区片平2-1-12-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980-8577,Japane-mail: fukuzawa@tagen.tohoku.ac.jp最終学歴:博士(理学)専門分野:原子分子科学現在の研究テーマ:自由電子レーザー,放射光を用いた原子分子科学研究趣味:息子との鉄道巡り上田潔Kiyoshi UEDA東北大学多元物質科学研究所Institute of Multidisciplinary Research for AdvancedMaterials, Tohoku University〒980-8577宮城県仙台市青葉区片平2-1-12-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980-8577,Japane-mail: ueda@tagen.tohoku.ac.jp最終学歴:博士(工学)専門分野:電子分子動力学現在の研究テーマ:自由電子レーザー,放射光,フェムト秒光学レーザーを用いた電子分子ダイナミクス研究趣味:音楽・オペラ・バレエ鑑賞33