ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

SACLAの高強度X線照射下の原子・分子の動的振舞い図4キセノン原子イオン収量のフルエンス依存性.(Peak fluence dependence of the ion yields for Xeatomic ions.)ピークフルエンスに対して一,二,三,五次の依存性をもつ線を目安として表示した.集光X線パルスの光子エネルギーは5.5 keV.文献15)から修正して掲載.りも低いピークフルエンス領域でそれぞれ二次および三次の依存性を示し,Xe 14+とXe 18+がそれぞれ2光子過程および3光子過程で生成することがわかる.Xe 24+は1光子イオン化の飽和が起こる領域でしか観測されていないので,実験結果だけでは何光子関与した過程で生成したかを決めることはできないが,理論計算から,+24価以上のキセノン原子イオンは10フェムト秒程度のXFELのパルス幅の時間内に光イオン化とオージェカスケードを5回以上繰り返して生成することがわかった.本研究から,SACLAの強力なX線パルスを照射された重原子では,1光子吸収過程はほとんど飽和し,10フェムト秒のパルス幅の間に,X線を吸収してはオージェ電子を次から次に放出する過程を繰り返して,急激にイオン化が進行することが明らかになった.この結果は,SACLAの非常に強力なX線パルスを用いた構造解析では,このような重原子の動的挙動を正確に記述することが不可欠であることを示唆するものである.本研究では,強力X線パルスを照射された重原子の動的挙動を理論的に正確に記述することにも成功した.本研究のような重原子の動的挙動の解明もまた,SACLAを用いて超微細構造や超高速現象を解明するための重要なステップなのである.換言すれば,XFELのような未知の光を使いこなすためには,まずは原子との相互作用を理解することが必要なのである.3.SACLAの強力X線照射を受けた重原子含有分子の特徴的な振舞い本章では,重原子を含む有機分子が強力なX線を吸日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)図5ヨウ化メチルから放出されるヨウ素原子イオンと炭素原子イオンの運動量相関:実験(記号)と計算(実線).(Momentum correlations between iodineions and carbon ions released from iodomethane.)文献17)より修正して掲載.Copyright 2015 AmericanChemical Society.収して起こる過程の研究例として,ヨウ化メチル分子と5-ヨウ化ウラシル分子を取り扱った研究を紹介する. 17)-19)ヨウ素原子は周期律表ではキセノン原子の隣であり,X線との相互作用においてはキセノン原子と似た振る舞いをすると考えられる.3.1ヨウ化メチルヨウ化メチル分子は重原子を含む最も簡単な有機分子である.X線をヨウ化メチル分子に照射すると,分子内のヨウ素原子がX線を吸収し,キセノン原子の場合と同様に,ヨウ素原子の内殻軌道からの電子放出に続くオージェカスケードにより電子を次々に放出して,多価分子イオンになる.SACLAの非常に強力なX線パルスを照射すると,このような過程が10フェムト秒のX線照射時間の間に複数回起こり,非常に多価の分子イオンが生成する.そして分子内に生成した正の電荷は,速やかに分子全体に再配分される.電荷が再配分されると,それぞれの原子が電荷をもつため,原子イオン間のクーロン反発力によって,分子はバラバラになって飛び散る.この現象はクーロン爆発と呼ばれている.本研究では,ヨウ化メチル分子を真空中に導入して,SACLA BL3で得られる超強力X線パルスを照射し,放出される原子イオンの三次元運動量を測定した.1個の分子から放出される原子イオン同士は運動量保存則を満たすことを用いて,1個のヨウ化メチル分子から生成するヨウ素原子多価イオンと炭素原子多価イオンの組を抽出することに成功した.図5にヨウ素原子多価イオンと炭素原子多価イオンの運動量相関を示す.モデル計算を用いてこの運動量相関の観測結果を再現したところ,ヨウ素原子サイトの電荷上昇に要する時間は約9フェムト秒であるのに対して電荷が分子全体に広がるのに要する時間は約3フェムト秒であること,さらに,わずか10フェムト秒のX線照射時間の間に炭素原子イオンと31