ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

SACLAによる光触媒の超高速時間分解XAFS研究されていた負のピークである.これ以外に10,205 eV付近に正のピークが観測されている.また,10,209 eVにも肩のような構造が観測され,それが増加しているようにも見える.実に複雑な様相がXFELという最先端のX線源により明らかになった.15)この複雑なスペクトルの解釈の詳細については別に譲るが,2つの変化の段階からなっていて,最初の早い過程は酸素からWのd軌道への電子移動そして,それに引き続く構造変化と解釈される.またPF-ARで観測された変化はこの構造変化が緩和していく過程を追跡したものになる.5.超高速EXAFS測定S/Nが高いスペクトルがとれると今度はエネルギーの高いところまで測定し,EXAFSも観測したくなる.しかし,XFELの場合には,放射光のように白色光が出てくるわけではない.すなわちアンジュレータギャップを変化させながら,測定していく必要がある.図6にスペクトルを示す.I0は変動している.これは,アンジュレータギャップを変化させているためである.しかし,吸収スペクトルは滑らかにつながっており,S/Nの大変高いスペクトルを測定することができている.この解析についての詳細も今後発表する予定である.現在ジッターが時間分解能を決めているが,XFELとPumpレーザの到達時間を計測し,後で処理することによりそのジッターを10 fs以下にする試みも始まっている.さらに早い過程を捉えることで,電子の動きや原子の構造変化も導かれるときがくるであろう.16)6.最後に筆者の一人(KA)は実験室のXAFS測定から始めている.当時は強力な回転対陰極X線源(RU-1000)で,1週間,朝から晩まで測定した.やっと得られたデータを解析し,原稿を書き,当時の指導教官の故黒田晴雄先生に持っていったが,「もう少したてば放射光が出ますから」と言われてそのままになった.1982年の夏にPFが完成し,2.2 GeV-10 mAで同じサンプルを測定したら,わずか30分で,実験室で測定したものよりはるかにきれいなスペクトルがとれ,大きなショックを味わった.SACLAもしかりである.放射光より良い時間分解能とS/Nで測定できたことは,驚きを通り越している.しかし,SACLAができたからといってXAFSのすべての実験がXFELに置き換わるものではない.普通のXAFSをとるにもアンジュレータギャップを変え,一点一点測定しないといけないから放射光よりはるかに効率が悪い.すなわちXFELができても放射光の必要性は減らない.時間分解にしても,nsからsと幅広い範囲を測定するには放射光の利用は必須だし,そちらのほうがS/Nが上がる可能性もある.現在,X線放射光施設は老朽化が進んでいる.PFは35年となり,SPring-8ですら,20年になろうとしている.この放射光のリニューアルもXFELとともに重要な課題であることを忘れないでいただければと思う.謝辞本測定では,理研の矢橋牧名博士,JASRIの片山哲夫博士,富樫格博士らをはじめ,北大の上原広充博士,大場惟史博士,KEK-PFの野澤俊介博士・佐藤篤志博士・一柳光平博士・深谷亮博士・足立伸一博士にお世話になった.また光触媒や測定手法解析においては,北大の大谷文章先生,長谷川淳也先生,分子研の横山利彦先生,レンヌ大学の畑田圭介先生にご議論をいただいた.この場を借りて感謝したい.また,科研費やNEDO燃料電池プロジェクトの援助を得て行った.図6EXAFS(赤い実線)とI0(入射X線)の変動(青線とドット).(EXAFS spectra(Red line)and I 0(IncidenceX-ray variation(blue and dots).)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.文献1)A. Fujishima and K. Honda: Nature 238, 37(1972).2)S. J. A. Moniz, S. A. Shevlin, D. J. Martin, Z. -X. Guo and J. Tang:Energy & Environ. Sci. 8, 731(2015).3)A. Kudo and Y. Miseki: Chem. Soc. Rev. 38, 253(2009).4)阿部竜:触媒56, 219(2014).5)M. Nomura, K. Asakura, U. Kaminaga, T. Matsushita, K. Kohra andH. Kuroda: Bull. Chem. Soc. Jpn. 55, 3911(1982).6)U. Kaminaga, T. Matsushita and K. Kohra: Jpn. J. Appl. Phys. 20,L355(1981).7)T. Katayama, Y. Inubushi, Y. Obara, T. Sato, T. Togashi, K. Tono, T.Hatsui, T. Kameshima, A. Bhattacharya, Y. Ogi, N. Kurahashi, K.Misawa, T. Suzuki and M. Yabashi: Appl. Phys. Lett. 103, 131105日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)27