ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

上村洋平,脇坂祐輝,城戸大貴,高草木達,朝倉清高,丹羽尉博た.少しずつ濃度を下げていき,1 mMを切り始めて,吸収端付近にわずかな違いが観測され始めた.そして,0.06 mM,実にSACLAで使用した1/500の濃度に達したときに,図3に示すような明らかな変化が観測された吸収端付近の大きな吸収ピークはホワイトラインと呼ばれ,Wの2pから5dへの双極子遷移に対応する.Pumpレーザの照射によりこのピークが下がった.このピークが下がった原因は5d空軌道の占有電子数(密度)が増加し,空軌道密度が下がったことを意味する.これは予想どおりである.そのピークの時間変化を追跡するとμt3.02.52.01.51.00.50.0102001021010220μt: 150 ps (pump)μt: 150 psμt 150 psμt -300 ps102300.20.10.0-0.1-0.2-0.3-0.4-0.5μt図4のようになる.これを一次反応で減衰するとして,近似し,その時定数を求めると0.53 ns-1という値を得た.14)4.XFELを用いたPump-Probe XAFSPF-ARにより実験条件,サンプル条件を決定した後,再びSACLAに申請し,ビームタイムをいただいた.Pump光によりすべてのWO 3を励起するには0.06 mMという低農度のサンプルを用いなければならない.これは,透過法では測定できず,蛍光XAFSは必須となる.残念ながらDXAFS法は,蛍光XAFSと併用することが一般にできないので,モノクロメータを用いて,一点一点スキャンして測定した.図2とほぼ同じセットアップで,測定した.蛍光検出にはPhotodiodeを用いた.PumpレーザとXFELのジッターにより500 fsの時間分解能が最高の時間分解能であった.XFELの発振していないエネルギーを分光器が分光して,信号は得られないのではと心配したが,図5に示すとおり,SACLAを用いて測定したデータは,放射光(図3)に比べて圧倒的にS/Nがよい.驚きの結果である.ここまでS/Nが上がると,今まで観測できなかった新たな構造が観測される.10,212 eVのピークはPF-ARでも観測図3E / eVWO 3のPump-Probe蛍光.(Pump-Probe fluorescenceXAFS of WO 3.)赤の実線レーザ照射後150 ps後,黒の実線レーザ照射前,青い逆三角はレーザ照射前の差スペクトル,赤い丸レーザ照射後150 psと照射前との差スペクトル.14)(With a permission ofChemical Society of Japan.)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.0.5260.524μt0.5220.5200.5180.5160400t / ps800図4差スペクトルに現れる負のピークの時間変化. 14)(Time dependence of the negative peak appearing inthe difference spectrum in Fig. 3.)(With a permissionof Chemical Society of Japan.)図5Pump-Probe XAFSの差スペクトル. 15)(Pump-Probefluorescence XAFS. The difference spectra wereshown.)(With a permission of Wiley-VCH Verlag.)26日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)