ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

西野吉則,木村隆志,鈴木明大,城地保昌,別所義隆図5サイズ分離した金ナノ粒子自己集合体に対するPCXSS測定.(PCXSS measurement for size-segregated goldnanoparticle self-assembly.)(左)コヒーレントX線回折パターン.(右)再構成像.15 nmの大きさの金ナノ粒子も観察できる高い空間分解能が達成された.みた. 20)試料は,グルコース末端をもつフッ素化オリゴエチレングリコールで表面を修飾した2つのサイズの異なる金ナノ粒子が,ジオキサン水溶液中で自己集合したものである.図5(左)にSACLAでシングルショット計測したコヒーレント回折パターン,図5(右)に試料の再構成像を示す.図5(右)に示すように,自己集合体は,小さなサイズの金ナノ粒子が外殻に1層あり,内側に大きなサイズの金ナノ粒子が分布するYolk/Shell(卵黄/卵殻)構造を有することを,溶液中で直接観察することに成功した.再構成像では15 nmのサイズの金ナノ粒子1つ1つを見分けることのできる高い空間分解能が達成された.4.4 PCXSS法の産業応用に向けた試み筆者の西野らは,理化学研究所が2014年度より行っているSACLA産学連携プログラム(2016年度からはSACLA産業利用推進プログラムに発展)にトヨタ自動車㈱と共同で申請し,PCXSS法の産業応用に向けた研究を進めている.SACLAを用いて,自動車排ガスの浄化に用いられる三元触媒に対してCDI測定を行い,母材であるアルミナの表面に,触媒であるロジウムのナノ粒子が担持されていることが示唆される像を得ることに成功した.この成果を,XFELを用いた世界初の産学連携研究として論文発表した. 21)5.おわりに本稿では,PCXSS法による溶液中の静的なナノイメージングの測定例を示した.PCXSS法による室温での溶液試料イメージングは,動的イメージングを行うことにより,さらに真価が発揮される.XFEL測定では,シングルショットで試料は破壊されてしまうため,1つの試料を時系列でイメージングすることはできない.しかし,22),23例えば,XFELにポンプ・プローブ法を適用)するなどして,試料状態を同期させることにより,動的イメージングが可能となる.SACLAにおいて開発中のMAXICの後継装置であるMAXIC-IIが利用可能になれば,ポンプ・プローブ法でのCDI測定において自由度が広がる.また,さらなる高空間分解能化に向けて,より集光度を高めたXFELでコヒーレント回折測定を行うことのできるMAXIC-Sと名付けた装置の開発をSACLAと共同で進めている.MAXICでは,サブマイクロメートルサイズの試料が測定対象だったが,MAXIC-Sでは数十nmのサイズの試料をターゲットとしている.これにより,生命科学および物質科学の両面で,PCXSS研究の新たな展開が期待される.謝辞PCXSS測定における,SACLAスタッフの支援に感謝する.MLEAチップ作製における,北大電子研技術部および文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の支援に感謝する.本研究は,文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略研究課題,科研費(15H05737,16H05989,16H06589,16K05527),物質・デバイス領域共同研究拠点などの支援を受けて実施した.文献1)M. R. Howells, et al.: J. Electron. Spectrosc. Relat. Phenom. 170, 4(2009).2)R. Neutze, et al.: Nature 406, 752(2000).3)H. N. Chapman, et al.: Nat. Phys. 2, 839(2006).4)西野吉則,石川哲也:放射光19, 3(2006).5)西野吉則:日本結晶学会誌51, 239(2009).6)J. Perez and Y. Nishino: Curr. Opin. Struct. Biol. 22, 670(2012).7)T. Kimura, et al.: Nature Commun. 5, 3052(2014).8)D. Sayre: Acta Crystallogr. 5, 843(1952).9)J. R. Fienup: Appl. Opt. 21, 2758(1982).10)J. Miao, P. Charalambous, J. Kirz and D. Sayre: Nature 400, 342(1999).11)J. Miao, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 110(2003).12)Y. Nishino, et al.: Phys. Rev. Lett. 102, 018101(2009).22日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)