ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

SACLAを用いたコヒーレントイメージング図3シングルショット計測した生きたM. lacticum細胞のコヒーレントX線回折パターン.(Single-shotcoherent X-ray diffraction pattern of live M. lacticumcell.)細胞の幅に起因する一方向に伸びた明瞭な干渉縞が観察された.図4 PCXSS法で観察した生きたM. lacticum細胞の像.(live M. lacticum cell image observed by the PCXSSmethod.)細胞の下部に電子密度分布が高い領域が観察された.あることがわかる.また,干渉縞の最大散乱角から,全周期空間分解能は28 nmと見積もられる.なお,サブマイクロメートルサイズの生物試料からの散乱はきわめて弱く,試料位置に何も置かない場合のバックグラウンド散乱と同程度の強度である.このため,前述のMLEAチップによる寄生散乱低減効果がなければ,本測定自身が困難であったことがわかる.実験的に得られる回折パターンの中心部には,一般に,ビームストップの影にデータ欠損が生じる.低散乱角領域の回折パターンは試料の概形を決める重要な情報を担うため,中心部のデータ欠損を小さくすることが位相回復の成功に求められる.一般に,最中心のスペックルの一部までデータ取得できると,位相回復は困難なくほぼ確実に成功するが,M. lacticum細胞に対する回折パターンには,中心部に比較的大きなデータ欠損があった.このため,位相回復計算を二段階で行う工夫をして,第一段階では長軸方向の長さを含め試料の概形を決め,第二段階で内部の詳細構造を決めた.図4に,反復的位相回復法により再構成した試料像を示す.再構成像は幅およそ194 nm,長さおよそ570 nmのロッド形状で,典型的なM. lacticum細胞のサイズや形状と一致する.干渉縞方向に対する再構成試料像の空間分解能を,位相回復伝達関数により評価したところ37 nmだった.再構成試料像には,電子密度分布が高い領域が試料像下部に存在しており,リンなどの原子番号の大きな元素を含むDNAが偏在していると考えられる.実際に,仮に,試料像上部が主にタンパク質で構成され,下部に核酸の塊があるとすると,それぞれの部分のイメージ強度の差をほぼ説明することができる.なお,ヒトなどの真核生物の細胞では,球形の核にゲノム情報が格納されて日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)いるが,原核生物であるバクテリアのゲノム情報は,一般に不定な形をした核様体に格納されている.固定・染色などの処理をしたバクテリア細胞の核様体は電子顕微鏡でも観察されてきたが,無染色の生きたバクテリア細胞における核様体の観察に本研究の独自性がある.本研究をさらに発展させ,いまだ詳細が解明されていない,細胞分裂過程における核様体の動態をイメージングする研究を進めている.4.3溶液中の金ナノ粒子自己集合体のイメージングPCXSS法の非生物試料への応用として,溶液中の金ナノ粒子自己集合体のイメージングを北大電子研の居城邦治教授,新倉謙一准教授らと共同で行っている.従来の電子顕微鏡では,これら溶液中の試料の観察は困難であり,また試料を乾燥させると構造が崩れる懸念があった.PCXSS法によって溶液中のナノ構造を放射線損傷なくイメージングできれば,材料開発への大きな貢献が期待される.なお,金ナノ粒子集合体は生物試料に比べてX線散乱能が大きい.このため,直径200 nm以下のサイズの集合体であっても,X線ビームの中心付近に当たれば,最中心のスペックルの一部まで高精度でのデータ取得が可能で,ほぼ確実に位相を回復できる.まず初めに測定を試みた試料は,ドラッグデリバリーなどへの応用を目指して開発された,球の半分が親水性,もう半分が疎水性をもつヤヌス様の金ナノ粒子(直径5 nm)の自己集合体である. 19)PCXSS法でイメージングした試料像は,150 nmほどの大きさをもち,動的光散乱法の実験による平均粒径160 nmと一致した.一方,走査透過電子顕微鏡で観察した乾燥した試料は,200~800 nmの直径があり,乾燥により基板上で試料がつぶれ変形したことが示唆された.次に,2つのサイズの異なる金ナノ粒子が,溶液中でサイズ分離した,新規の自己集合体のイメージングを試21