ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

南後恵理子,中根崇智,岩田想による偽陽性率が高いうえ,パラメータ調節が煩雑だった.局所的な背景強度に対するシグナル/ノイズ比やスポット面積に基づいて回折点を認識できるCheetahの使用により,試料ごとにパラメータを変更せずとも安定してヒットを識別できるようになった.必要な枚数はラウエ群や結晶の均一性にもよるが,4/mmmの場合で10,000~15,000枚が目安となる.数千枚からでもマップを描くことはできるが,ノイズが多く信頼性に欠ける.仮にヒット率3割,指数付け成功率8割とすると,15,000枚の指数付け可能画像を得るためには,15000/0.8/0.3/30/60で,およそ35分かかる計算になる.ヒット率が低ければそれに反比例して時間がかかるから,ヒット率の最適化は効率的にビームタイムを使ううえで重要である.一方,結晶密度が高すぎると,複数の結晶が同時にX線に露光し,複数の格子を含む回折像が生じてしまう.最新のプログラムなら複数格子があっても処理可能だが,データ品質が落ちる傾向にあるので,なるべく複数格子を避けるべきである.結晶密度と単一格子・複数格子の割合はポアソン分布でモデル化でき,CrystFELのWebサイト18)から計算できる.パイプライン上では,ヒット率を確認できる.ビームタイムには複数人で参加し,測定と並行して次のサンプルバッチの準備を進め,ヒット率や分解能が不満であればただちにサンプルを交換すると良い.水相に分散させた微結晶の場合は,遠心で結晶を濃縮できるので,ヒット率の調節は比較的容易である.一方,LCP中の膜タンパク質結晶を濃縮する方法は今のところ存在せず,結晶化時のタンパク質濃度や沈殿剤濃度を工夫するしかない.4.3オフライン処理測定が完了したデータから,オフライン系に処理が引き継がれる.オフライン系では,ヒット画像だけを選別してHDF5形式のファイルに書き出し,CrystFEL 19)によって指数付けと積分を行う.時分割実験の場合は,励起レーザー照射の有無をフォトダイオードの出力によって分類する(図6).静止画像の処理で難しいのは,たった1枚の画像から回折パラメータ(格子定数・結晶方位・mosaicityなど)を決定することである.また,SACLAで開発された検出器であるMPCCD 20)は8枚のセンサをタイル状に並べてできているので,センサ同士の位置関係も精密化する必要がある.CrystFEL 0.6.0からは検出器幾何を精密化するgeoptimiserや回折点位置に基づいてビームセンタと回折パラメータを精密化するprediction refinementが実装された.複数の結晶からのデータをマージする際も,単に平均をとるだけのMonte Carlo法を超えて,スケール因子や温度因子を補正するpartialatorが登場した.これらの進歩により,データを再処理するだけで古いバー図6時分割実験時のオフライン処理系の様子.(Screenshotof the GUI for the offline pipeline in a time-resolvedSFX experiment.)励起レーザ照射の有無によってlightとdarkに画像を分けて処理している.ジョンと比べて分解能が0.2 Aほど改善することも少なくない.5.今後の展望解析手法にはまだ改良の余地があり,post-refinementによって反射の部分度partialityを補正したり,単色X線としての近似をやめてスペクトルを明示的に扱ったりする方向へ研究が進んでいる.SACLAでは主にCrystFELを利用しているが,cppxfel 21)やDIALSについても開発者と連携して対応を進めている.それぞれのプログラムには長所・短所があるので,いろいろ試すとよい.筆者がかかわった研究では論文公開と同時に回折像もCXIDB 22)で公開し,将来の再解析に備えるほか,プログラム開発や教育への利用も推奨している.ハードウェア面でも進歩が続いている.溶液混合型14の時分割装置)や,長い遅延時間を可能とするベルト23コンベヤ式時分割実験装置)が最近報告された.また,SwissFELやEuropean XFELやPALの完成も間近であり,ビームタイムも増えることが期待される.これにより,より多くのタンパク質がSFX実験の対象となるだろう.SACLAでも,60 Hz運転や複数ビームラインの同時利用を本格的に実施するための高度化が進められている.謝辞筆者らは2012年度より文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略研究課題「創薬ターゲット蛋白質の迅速構造解析法の開発」の支援を受けて技術開発を行ってきた.当該課題のメンバーをはじめとして,開発や実験にご協力いただいた関係各位に深く感謝申し上げる.16日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)