ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

SACLAにおけるシリアルフェムト秒結晶構造解析の現状と展望図4 bRにおける最初のプロトン輸送機構.(Mechanismof primary proton transfer in bR.)薄紫色は基底状態の構造を,赤色は760ナノ秒後の構造を示す.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.側鎖が動いて生じた空間に,水分子と考えられる電子密度が現れることが明らかとなった.この水分子(W452)は,レチナール上のシッフ塩基およびThr89と水素結合しており,シッフ塩基からAsp85へとプロトンを受け渡す重要な役割をしていると考えられた(図4).この水分子は,光照射後40ナノ秒から10マイクロ秒後まで観測され,その後消失することから,プロトン移動の際だけ現れると考えられた.最初のプロトン移動には,光照射から10マイクロ秒程度の比較的長い時間がかかっていたが,これはヘリックスの大きな動きを伴うことが必要なためと思われる.プロトン移動後には,Asp85とThr89の水素結合が消失することで,シッフ塩基とAsp85の間のプロトン移動が困難となるため,同一方向でのプロトン移動が達成されることが初めて明らかとなった.4.SFXのデータ処理4.1概要シリアル結晶学では,膨大な枚数の回折像からデータセットを構築する.SACLAで30 Hzのデータ測定を行うと,データレートは毎秒120 MBに及ぶ.その中には,結晶からの回折を含むヒット画像と結晶にXFELが当たらなかった外れ画像が混ざっているため,ヒットだけを選別して処理する必要がある.各回折像は別々の結晶に由来するため,数枚の回折像を見ただけでは分解能など結晶の質を判断することはできず,データセット全体における分布を考慮しなければならない.これらの情報を基にビームタイム中の実験戦略を考える必要があるため,高速な自動処理システムが必要となる.SACLAではスクリプトを組み合わせた簡易処理システムを利用していたが, 15)速度や精度が不十分であった日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)図5オンライン解析の様子.(Screenshot of the monitor forthe real-time pipeline.)(上)オンライン解析結果はリアルタイムで画面に表示される.赤い点は各画像に含まれる回折点の数,青い点は飽和した回折点の数を示す.あらかじめ設定した個数(例えば20個)以上の回折点を含む画像がヒットと判定され,オフライン解析へと引き継がれる.ヒット率は青線でプロットされている.(下)回折点の座標から指数付けを行い,格子定数のヒストグラムや分解能の見積もりがリアルタイムで表示される.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.ため,Cheetah 16)を基にしたデータ処理パイプラインを新たに構築し,2014年冬から運用を開始した.LCLS向けに開発されたCheetahに対し,SACLAのデータ取得システム(DAQ)と連携するための改造や,複数の計算機上で並列実行するための修正を施した.本稿では運用の実際を紹介する.パイプラインの詳細については文献17)を参照されたい.パイプラインは,オンライン系とオフライン系の2段階からなる.4.2オンライン処理データ測定を開始したら,まずオンライン系の出番となる.ここでは,検出器で取得された画像がほぼリアルタイム(数秒未満の遅延)で解析され,画像に含まれる回折点の数・飽和した回折点の数・ヒット率・格子定数の分布や分解能の見積もりが表示される(図5).これにより,X線が結晶の流れにきちんと当たっているかどうか,減衰器の厚みは適切かを判断することができる.検出器のダイナミック・レンジは大きくないので,高分解能を目指すには1画像に数個程度の飽和は許容せざるを得ないのが現実である.以前は関心領域内の最高強度を基にヒットを判定していたが,溶媒などからの強い散乱15