ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

SACLAにおけるシリアルフェムト秒結晶構造解析の現状と展望図1 SFX実験の概念図.(Schematic drawing of an SFXexperiment.)具体的には,微結晶を溶液などに懸濁させ,インジェクターと呼ばれる結晶導入装置から連続的にXFEL照射領域に送り,多数の異なる配向の微結晶から回折データより構造解析を行っている.この方法の利点は,1放射線損傷の影響を無視できる構造が得られること,2凍結せずに測定を行うため,生体内の条件に近い常温構造が得られること,3極短X線パルス(SACLAでは10フェムト秒以下)を用いるため,シンクロトロンのバンチ幅よりも短いフェムト秒~ピコ秒といった高い時間分解能が得られること,4強力なX線レーザーのため微結晶(数~数十μm前後)で実験を行うことが可能,などが挙げられる.2.2インジェクターによる結晶導入方法SACLAでは,最大60 Hzで繰り返されるXFELパルスを試料に照射するため,SFXによる測定では連続してXFEL照射領域に結晶を送る必要がある.液体ジェットインジェクター3)は,緩衝液に懸濁させた結晶を高速(流速10~300μL/min程度)で吐出する.試料を節約するには流速を下げたいところだが,流速を下げると表面張力の影響で直線状のジェットを維持できない.試料ジェットの直径は,試料消費量とバックグラウンドノイズの低減のため数十μm程度としている.XFELビーム(SACLAでは約1.5×1.5μm)は,必ずしも結晶に当たるとは限らない.結晶密度が高いほどXFELに結晶が当たる確率(ヒット率)は高いが,ノズルが詰まりやすく,複数の結晶からの重なった回折像が得られるといった問題のため,おおむね10 7~10 8個/mLの結晶密度で実験を行っている.試料ストリームの径や結晶サイズにもよるが,この結晶密度で実験を行った時はヒット率が10~30%程度となる.現在,SACLAでは試料消費量の低減のために別方式のインジェクターを主に使用している.1つは,高粘度媒体用インジェクターで,4)lipidic cubic phase(LCP)やグリース5)などの高粘度媒体に混合した結晶を用いる.日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)高粘度であるため低速度(0.3μL/min程度)で流しても連続的に試料を送ることができる.もう1つは,XFELに同期させた液滴として試料を吐出する液滴インジェクター6)で,この場合は高粘度媒体の添加が必須ではないので,壊れやすい試料に適している.いずれの場合も液体ジェットに比べて試料量の大幅な低減が可能であり,ヒト由来の膜タンパク質など調製が容易でない試料の測定も可能となっている.各種インジェクターは,SFX実験プラットフォームであるDAPHNIS(diverse application platform for hard X-raydiffraction in SACLA)のヘリウムチャンバー内に取り付けて,実験を行っている.7)インジェクターやDAPHNISの詳細については,今月号の登野博士によるSACLAのビームライン・実験装置の概要を参照されたい(DAPHNIS:図4,液体ジェットインジェクター:図5に該当).2.3測定試料の調製方法われわれは10~30μm程度の結晶を用いてSFX実験を行うことが多く,少なくとも10 7個/mL程度の結晶密度の溶液を50~100μL程度用意する必要がある.可能ならば,結晶サイズが均一であるほうがインジェクターで流す際に結晶がつまるなどの問題が起きにくい.水溶性タンパク質の場合,多数の微結晶を均一に得るには,蒸気拡散法よりもバッチ法で作製するほうが容易である.リゾチームの場合では,mLスケールのバッチ法で行っているが,一般的にはまずはnLスケールなど微量での蒸気拡散法によるスクリーニングを行う.8)1~30μm程度の結晶が数多く出ている条件があれば,その条件のpHや沈殿剤の濃度を変え,Sitting drop用プレートを使って蒸気拡散法ではなく少量のバッチ法(1μLずつなど)を検討している.結晶化温度は20℃および4℃で行うことが多い.今まで試した試料においては,低温になるほど結晶サイズが小さくなる傾向が見られた.結晶核の生成が遅い場合は十分な数の結晶が得られないことが多いので,シードを加えて結晶化を促進することもある.膜タンパク質の場合はLCP法を用いることが多い.LCP法は,モノオレインなどの脂質膜中で結晶化する方法である.2014年に,LCP結晶を脂質とともに専用インジェクターで流してXFELによる回折像を取得する方法(LCP-SFX)が報告された.2014年にLiuらが報告したLCP-SFXの結晶化方法では,シリンジ内に結晶化溶液を満たしておき,脂質とタンパク質を混合して調製したLCP 5μL程度を,カップラーを用いて筒状に挿入して結晶化を行っている(図2).9)結晶化後,結晶化溶液を除いてLCP部分のみをインジェクターに導入して結晶輸送を行うが,溶液部分が残り連続的な輸送が困難なこともある.そのため,実験前にモノオレインを加えて残った溶液を吸収し,インジェクターに導入するのが一般的である.13