ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

日本結晶学会誌59,12-17(2017)特集SACLASACLAにおけるシリアルフェムト秒結晶構造解析の現状と展望理化学研究所放射光科学総合研究センター南後恵理子東京大学大学院理学系研究科中根崇智京都大学医学研究科,理化学研究所放射光科学総合研究センター岩田想Eriko NANGO, Takanori NAKANE and So IWATA: Serial Femtosecond Crystallographyat SACLA: Current Situation and Future ProspectsIntense, femtosecond X-ray pulses from X-ray free electron laser(XFEL)have enabled acquisitionof diffraction patterns from protein microcrystals before the onset of radiation damage. Although asingle-shot exposure of XFEL destroys a crystal, diffraction by XFEL terminates before movementsof atoms become significant. Thus, XFEL allows determination of damage free structures at roomtemperature. In serial femtosecond crystallography, fresh microcrystals are continuously delivered byan injector to the XFEL interaction zone. When combined with an excitation laser in a pump-probesetting, this technique is of great utility for time-resolved experiments in measuring ultra-fast reactions inproteins. We will describe current situation of SFX experiments at SACLA and future prospects.1.はじめにタンパク質など生体高分子の機能や機構を原子レベルで理解するためには,タンパク質の立体構造を知る必要がある.タンパク質X線結晶構造解析は,遺伝子工学の発展とシンクロトロン放射光の普及も相まって1990年代より飛躍的に進歩し,Protein Data Bankへの登録数は現在12万件以上にも及ぶ.しかし,今なお解析可能な結晶サイズには限界があり,数十μmサイズの結晶から構造決定を行うのは容易ではない.また,結晶が放射線による損傷を受けるという問題もあり,放射線損傷を受けやすい試料では得られた構造の信憑性が議論となっていた.2000年,Neutzeらは,強力なフェムト秒X線パルスレーザーならば,タンパク質が崩壊する前,すなわち放射線損傷が顕在化する前に回折像を得ることが可能であるという(diffraction before destruction)理論計算を報告した.1)この論文がX線自由電子レーザー(XFEL)の必要性を訴える根拠の1つとなり,その後のXFELの実現に至った.2009年には,XFELを用いた新たなタンパク質結晶構造解析方法として,シリアルフェムト秒結晶解析(SFX)が考案され,最初のSFX実験が米国LinacCoherent Light Source(LCLS)で行われた.SACLAにおいては,理化学研究所を代表機関とするX線自由電子レーザー重点戦略研究課題「創薬ターゲット蛋白質の迅速構造解析法の開発」が採択され,2012年よりSFX法の技術および装置開発を行っている.SFX法の最大の魅力は何と言ってもタンパク質の構造変化の追跡を目的とした「時分割実験」である.最近のSACLAでは時分割SFX実験がSFX実験課題の8割を占めるようになった.われわれは最近,光駆動型プロトンポンプであるバクテリオロドプシンの時分割SFX実験に成功し,ナノ秒からミリ秒にかけての13時点でのスナップショットを得た.2)X線結晶構造解析によるタンパク質の動的構造解析としては,従来のLaue法やクライオトラップ法が知られているが,前者は技術的な困難を伴い,後者は極低温によって準安定状態を捕捉する手法のため,反応の時間経過を観察するには不向きという課題があった.一方,SFXによる時分割実験では,常温で測定を行い,タンパク質中で起こっている反応の瞬間を放射線損傷の影響を受けずに捉えることができる.以上のことから,時分割SFX法は,高い空間的・時間的分解能でのタンパク質動的構造解析を可能にするとして期待されている.本稿では,SACLAのSFX実験・解析の現状を紹介しながら,SFXによるタンパク質結晶構造解析の将来的な発展についても議論する.2.シリアルフェムト秒結晶構造解析(SFX)とは2.1概要XFELの照射により試料が崩壊するため,SFX法では次々に新たな結晶を導入する方法で実験を行う(図1).12日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)