ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

登野健介が整備されている.(1)液体ジェットインジェクター多数の微小結晶が含まれる懸濁液を内径100μm程度の極細ノズルから射出するものである(図5).ノズル部分は2重キャピラリー構造となっており,内側のキャピラリーには試料が,外側にはヘリウムガスが導入される.ヘリウムガスの流れによって,吐出された液体ビームは直径10μm以下まで絞り込まれる. 37)このような効果により,キャリア液体に由来するバックグラウンドを低く抑えることができる.SFXに限らず,液体ジェットインジェクターはX線散乱,X線分光,回折イメージングなどにも利用可能な汎用性の高い装置である.ただし,高速(流速10~300μL/min程度)で試料を吐出するため,多量の試料が必要となる.例えばタンパク質のSFXの場合,一般に10~100 mgのタンパク質が消費される.インジェクターから吐出される流体中には結晶がランダムに分布しており,投入したすべてのX線パルスが結晶を捉えるわけではない.測定で投入されたX線パルスの総数と得られた回折像の枚数の比率はヒット率と呼ばれ,測定の効率を示す重要な指標となる.液体ジェットインジェクターの場合,最適な条件におけるヒット率は30%程度である. 38)また,結晶の角度を制御することは難しく,ランダムな向きの結晶から多数の回折像を取得してデータの統計精度を高めている.構造決定に必要なデータセットを揃えるには,一般的に数千~数万枚,場合によっては10万枚以上の回折像が必要となる.(2)高粘度キャリアインジェクター結晶のキャリアとして高粘度の流体を使用し,低い流速で吐出するものである.典型的な流速が0.3μL/min以下であり,少量の試料で測定を行うことができる.SACLAで行われたタンパク質SFXの例では,1 mg以下のタンパク質消費量で構造が決定されている.6)特に,脂質キュービックフェーズ法などを用い,高粘度環境下で析出させたタンパク質結晶に有効である.その他の場合であっても,グリースやヒアルロン酸などをキャリアとして利用することで,幅広く適用することができる. 6),39)(3)液滴インジェクターインジェクターをパルス駆動し,試料を微小液滴として導入するものである.液滴の吐出をXFELと同期させることができるため,連続的な流れとして送り込む場合に比べて無駄になる試料が少ない.リゾチームの構造解析に適用した例では,リゾチーム消費量が0.3 mg未満と報告されている. 31)なお,上記の標準インジェクター以外にも,ユーザーが持込んだインジェクターをDAPHNISに搭載して実験を行う場合も多い.4.2.4 X線画像検出器DAPHNISには,SACLAの標準画像検出器である表3MPCCDセンサーの主な仕様.(Specifications of asingle MPCCD sensor.)ピクセル数512×1,024ピクセルサイズ50×50μm 2センサーエリア25.6×51.2 mm 2最大フレームレート60 fps最大許容信号強度3.5 Me-(典型値)(~1,200 photons @ 6 keV)システムノイズ300 e-(典型値)(~0.18 photons @ 6 keV)システムゲイン18 e-/ADU(典型値)MPCCD(multi-port charge-coupled device)検出器が搭載されている. 21)広い面積をカバーするため,検出面は8枚のセンサーで構成される.表3に,センサー1枚当たりの仕様を示す.SACLAの光特性と実験形態に適合するように仕様が定められており,以下のような特徴を有する.(1)高速撮像最高60 Hzで繰り返されるXFELパルスを無駄なく利用するため,MPCCDセンサーには毎秒60フレームで撮像する性能が備わっている.(2)大面積X線回折実験で高い分解能を実現するには,大面積のセンサーを用いて高角領域まで回折パターンを記録する必要がある.8枚のセンサーで構成されるDAPHNISの検出器は,およそ110×110 mmの広い検出面積を有する.(3)高感度,低ノイズ硬X線領域において1光子レベルの検出感度を有し,高角領域における弱い信号も検出可能である.当然ながら,ノイズレベルは1光子の信号レベルより十分低く抑えられている.(4)高い最大許容信号強度(ピークシグナル)大強度のXFELパルスを利用する実験では,単一のセンサーピクセルに多数の光子がほぼ同時に入射する.このような場合でも出力が飽和しないように,MPCCDセンサーは高い許容信号強度を有している.以上のような高い性能を示すMPCCD検出器の用途はSFXに限らず,SACLAにおける大部分の実験に利用される.ここで紹介したセンサーに加えて,有感層を厚くして感度を高めたタイプも整備されている.4.2.5同期フェムト秒レーザーシステム結晶構造解析においても,XFELの短い時間幅を活用した時間分解計測が行われている.代表的な例として,光応答性タンパク質の構造ダイナミクス研究を目的としたポンプ-プローブ実験が挙げられる.このような実験では,ポンプ用光源として光学レーザーが必要である.SACLAの実験ホールには光学レーザー用のクリーンルームが設置されており,フェムト秒レーザーシステムが収容されている.このシステムはチタンサファイア10日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)