ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

SACLAのビームライン・実験装置の概要いであろう結晶構造解析実験プラットフォームを取り上げ,システムの概要と各構成要素について紹介する.実験プラットフォームを利用した構造解析の例については,本特集の別の記事を参照していただきたい.4.2連続X線回折実験プラットフォームDAPHNIS4.2.1 DAPHNISの概要XFELを用いた結晶構造解析実験では,“diffractionbefore destruction”と呼ばれるアプローチが一般的である. 33),34)第2章でも述べたように,試料の損傷が進む時間スケールより早くX線との相互作用が完結し,回折データを取得することができる.ただし,結晶試料は1度の照射で破壊されるため,次の照射時には新鮮な試料が供給される.SACLAでは,2通りの方法で実験が行われている.1つは,放射光実験でも利用されるゴニオメーターと高品質な結晶を利用して高分解能データを取得する方法である.5)この場合は,XFELパルスを照射するごとに試料の位置を変え,結晶の新鮮な位置に次のパルスを照射する.もう1つの方法は,液体などに分散させた微小結晶を連続的に照射野に送り込んで大量の回折データを取得する連続フェムト秒結晶構造解析(SFX;serial femtosecond crystallography)である(図3). 35),36)ここでは,後者のSFXに利用される実験システムについて述べる.SACLAにおいては,連続X線回折実験プラットフォームであるDAPHNIS(diverse application platform for hardX-ray diffraction in SACLA)が開発された. 30)このシステムは汎用性と拡張性を重視して設計され,XFELの実験に慣れていないユーザーでも扱いやすい装置となっている.2013年に共用を始めてから多くのタンパク質SFXで利用され,良質なデータを取得することに成功している.さらに,時間分解計測などの先進的な実験やより効率的な利用に向けて改良が継続されてきた.SFX法では,マイクロメートル程度の微小結晶を流体キャリアに分散させ,試料インジェクターと呼ばれる装置から照射野に連続的に送り込む.SACLAの場合は最大60 Hzで繰り返されるXFELパルスを照射し,回折パターンを画像検出器で記録する.このような測定法に対応するため,DAPHNISは基本的に試料チャンバー,試料インジェクター,X線画像検出器から構成されている(図4).また,60 Hzで生み出される画像データを記録・処理するための計算機群とソフトウェアも必須である.なお,DAPHNISはビームラインの集光システムに接続され,1μm程度に集光されたXFELビームが測定に利用される.4.2.2試料チャンバー試料チャンバーにはインジェクターが搭載されるとともに,入射X線コリメーター,試料観察のための顕微光学系が組み込まれている.装置の利便性を高めるために,真空環境ではなく大気圧下で測定が行われる.バックグラウンドを低減するため,チャンバー内はヘリウムガスで置換することが可能である.チャンバーは検出器から独立しており,交換や機能の追加が容易なため,さまざまな試料や測定形態に柔軟に対応できる.4.2.3試料インジェクターDAPHNISの標準インジェクターとして,以下の3種類図4 DAPHNISシステム.(DAPHNIS system.)図3連続フェムト秒結晶構造解析(SFX).(Serial femtosecondcrystallography(SFX).)図5液体ジェットインジェクター.(Liquid-jet injector.)日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)9