ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

ページ
14/60

このページは 日本結晶学会誌Vol59No1 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No1

登野健介表2ビーム輸送光学系の仕様.(Specifications of the beamtransport optics of SACLA BL3.)平面ミラー光学系1視斜角4 mrad臨界エネルギー(Si表面)7.5 keV平面ミラー光学系2視斜角2 mrad臨界エネルギー(Si表面)15 keV二結晶分光器(Si 111)適用可能エネルギー範囲4~30 keVエネルギーバンド幅(ΔE/E)0.01%ことができる.表2にそれぞれの仕様をまとめた.二結晶分光器からは単色性の高い光が供給されるが,分光後には光量が減少する.平面ミラーは,臨界エネルギー以下の領域で高い反射率を示すため,大強度のビームが必要な実験で利用される.また,高次高調波の除去にも有効である.なお,二結晶分光器と平面ミラーのどちらの場合でも,出射ビームの位置が一定になるように設計されている.分光器とミラーのほかにも,スリット,強度減衰用フィルター,ベリリウムX線窓といった基本的な光学機器が利用できる.いずれの機器の光学素子にも精密加工が施されており,XFELの空間コヒーレンスを損なわないよう配慮されている.また,XFELの高いピークパワーによるダメージも深刻な問題であるため,ダメージ耐性の高い素材の光学素子が選ばれている.3.3光診断系パルス強度,空間分布,波長といった光特性の定量的評価もビームラインの重要な役割である.光診断は,加速器とビームラインの調整はもちろん,実験データの解析にも不可欠となっている.第2章で述べたように,ビームラインの診断機器に求められる要件は,パルスごとに非破壊で特性データを取得できることである.したがって,X線透過率の高いダイヤモンド薄膜や気体を利用した透過型モニターがビームラインの各所に配置されている(図2).複数のモニターを同時に利用することで,ビーム特性を示す各種パラメーターを並行して測定することが可能である.測定結果はパルスごとにデータベースに記録され,実験データの解析や光源の調整に活用される.以下に代表的なモニターを挙げる.3.3.1スクリーンモニター13),19)不純物としてホウ素を含むダイヤモンド薄膜を利用した蛍光スクリーンであり,XFELビームの二次元空間強度分布を観測できる.3.3.2ビームモニター14),27)ダイヤモンド薄膜から散乱されたX線を,上下左右の4カ所に配置された検出器で計測することにより,ビーム重心位置と強度を求めることができる.3.3.3波長モニター19)多結晶ダイヤモンド薄膜からの回折X線を観測し,回折角からX線の波長を求める.3.3.4ガスモニター19)ガスセル中のアルゴンガスによって散乱されるX線を上下2カ所に配置された検出器により計測し,入射X線の強度をモニターする.以上の診断機器は,空間および周波数領域における基本的なパラメーターを与えるもので,ほぼすべての実験に共通して利用される.さらに,時間分解型の実験では時間領域の診断が重要となる.特に,XFELパルスの到達タイミングの情報は必須である.例えば,光学レーザーを用いたポンプ-プローブ計測では,レーザーとXFELの到達時間差が最も基本的な実験パラメーターとなっている.フェムト秒領域の計測分解能を実現するには,フェムト秒の精度で時間差を測定することが前提となる.このような高い時間分解能を有するタイミング診断装置がSACLAにおいて開発され,到達時間差をパルスごとに記録することが可能である. 23),24)タイミング診断と実験を同時並行で行うには,透過型回折格子(図2中のTG)をビームスプリッターとして利用する.一次回折光はタイミング診断装置に,0次回折光が実験に利用される.なお,一次回折光を利用して高分解能スペクトルをパルスごとに記録することも可能である. 15),24)到達タイミングに加えて,パルス時間幅の診断も非常に重要である.これまでXFELのスペクトルから見積もられた時間幅が報告されているが, 15)いまだに直接的な方法で測定されていない.現在,自己相関法に基づいた計測手法の開発が行われている. 28),29)4.利用実験装置4.1共通基盤装置SACLAの性能を最大限に活かして実験を行うためには,実験装置にも高い性能が要求される.このような要求を満たすX線光学システム(集光システム,分光システムなど), 12),15),20),22)X線検出器, 21)30), 31)試料供給装置などが開発され,共通基盤装置として利用されている.また,ゴニオメーター,X線強度モニター, 16)X線シャッター(パルスセレクター)32)など,汎用性の高い共通機器も利用可能である.このような機器を組み合わせることで,それぞれの利用研究の目的に沿った実験系を構築する.最近では,手法が確立された実験を中心に,あらかじめ必要な機器群をシステムとして組み上げた実験プラットフォームの開発が進められている. 30)当然ながら,実験装置の制御システム,データ収集・処理システムも利用実験の基盤として整備されている. 25)この章では,SACLAの代表的な共通実験装置について述べる.ただし,各種装置を網羅的に紹介するのではなく,特定の実験のために統合されたシステムに焦点を当てる.ここでは,読者が具体的なイメージをもちやす8日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)