ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

日本結晶学会誌59,6-11(2017)特集SACLASACLAのビームライン・実験装置の概要高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室登野健介Kensuke TONO: Beamlines and Experimental Instruments at SACLAX-ray free electron laser (XFEL) produces femtosecond X-ray pulses with 10 11 ?10 12 photons/pulse and nearly full spatial coherence to offer new research opportunities in various scientificfields. To fully utilize the characteristics of XFEL, beamline optics, photon diagnostics systems, andexperimental instruments have been developed at SPring-8 Angstrom Compact free-electron LAser(SACLA). This article gives an overview of the beamlines and experimental instruments at SACLA.1.はじめにX線自由電子レーザー(XFEL;X-ray free electron laser)施設SACLA 1)が2012年3月に供用を開始してから約5年間が経過した.これまで継続的に高度化を進めるとともに順調に運転を続け,2016年度には約4,000時間を共用ビームタイムとして提供する見込みとなっている.現在3本のビームラインが稼働中であり,そのうち2本(BL2,BL3)が硬X線,1本(BL1)が軟X線ビームラインである.利用研究の内容は構造生物学,超高速物理・化学,材料科学,X線光学,原子分子科学,高エネルギー密度科学など多岐にわたっている.これらの研究の基盤となるビームライン光学系,光診断系,共通実験装2)置については,隣接するSPring-8やSCSS試験加速器を利用して研究開発が行われ,XFELの運転開始に合わせて運用が始められた.供用初期の利用実験にはまだ手法開発の要素が多く残っていたものの,この5年のあいだに実験法の確立が進み,興味深い成果が生み出されている.3)-9)実験手法の進化を牽引したのが基盤実験装置の高度化であり,測定に必要な装置群をシステムとして統合した実験プラットフォームも登場している.本稿では,SACLAにおける利用研究を支えるビームラインと共通実験装置について概説し,代表的な実験例を紹介する.なお,構造解析分野の研究で多く利用される硬X線ビームラインに焦点を絞り,軟X線ビームラインの解説は割愛する.2.SACLAの光特性まず,SACLAから供給されるXFELの特性をまとめ,ビームラインと実験装置に求められる要件を明確にする.表1に,BL3の光特性を示す. 10), 11)SACLAのXFELは自己増幅型自発放射(SASE;self-amplified spontaneous emission)であり,以下の特徴を有する.(1)硬X線領域の波長(最短0.06 nm)(2)完全に近い空間コヒーレンス(3)高い単色性(4)大強度の超短時間パルス(5)パルスごとの特性揺らぎがある(1)の波長領域については,硬X線放射光の利用における長い開発の歴史の中で培われた技術を活用することができる.実際に,SACLAの基盤装置の多くの部分で,SPring-8のX線光学系や実験装置の技術が踏襲されている.(2)のコヒーレンスはきわめて重要なXFELの特性であり,回折イメージングなどの手法では欠かせないものとなっている.コヒーレンスを損なわないために,高品質な光学素子を使って光学系を構築し,波面の乱れを最小限に留める必要がある.(3)の高い単色性のため,分光器を用いない高強度ピンクビームを利用する実験が多い.次の(4)の特性に対応するためにも,高いダイナミックレンジとダメージ耐性が光学系と実験装置に求められる.(4)は,XFEL以前のX線源との違いを最も際立たせる特徴の1つである.これにより,これまでのX線実験の本質的問題であった放射線損傷を回避することも可能となる.すなわち,損傷の時間スケールよりも早く試料とX線の相互作用を完結させることができる.ただし,次のパルスが到達するまでには深刻なレベルまで損傷が進んでしまう場合が多い.したがって,パルスごとに試料を交換してデータを取得する機能が実験装置に求め表1 SACLA BL3の光特性.(Photon beam properties ofSACLA BL3.)光子エネルギー4~20 keVピークパワー6~60 GWパルスエネルギー(10 keV)~0.5 mJ(3×10 11 photons)パルス幅10 fs以下エネルギーバンド幅ΔE/E 0.5%(半値全幅,10 keV)6日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)