ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

矢橋牧名SPring-8SACLA図1 SACLAとSPring-8.(SACLA and SPring-8.)制しながら短波長FELを生成することが可能になる.このためのキーテクノロジーとして,真空封止型アンジュレータの利用が提案された.この日本発の技術は,従来とは異なり磁石列をすべて超高真空内に配置することで,対向する磁極間の間隙をぎりぎりまで狭くし,短周期長でも十分な揺動磁場を与えるというものである.1990年代に建設されたSPring-8の蓄積リングに本格的に導入され,放射光向けのデバイスとしては十二分な実績を積んでいた.これに,高加速勾配のCバンド加速器システムと低エミッタンス熱電子銃を加えた3つの要素技術の開発が,2001年に開始された.さらに,これらを組み合わせたコンパクトXFELシステムの実証機として,ビームエネルギー250 MeVのSCSS試験加速器の建設が2004年から進められ,2006年には波長49 nmのEUV-FELの生成に成功した. 16),17)このような技術革新を基盤に,2006年,XFEL施設SACLAの建設が開始された.2011年3月には,当初の計画どおり建設を完了(図1),同年4月より精密調整を開始し,6月には当時の世界最短波長の1.2 Aで硬X線FELの生成に成功した.2012年3月から利用運転を行っている.このSACLAの成功は,超大型の規模でなくてもXFEL施設が建設・運用できるということを証明したことにほかならず,世界各国を大いに刺激した.特に,スイス・ポールシェラー研究所(PSI)と韓国・ポハン加速器研究所(PAL)は,SACLAに類似したコンパクトXFEL施設の建設を開始し,2016年には,それぞれEUV領域,硬X線領域におけるFEL生成に成功した.European XFELとともに,2017年より利用運転が開始される予定である.4.SACLAのユニークさ前章でみてきたように,XFELはまだ歴史が浅い光源であり,さまざまな最新テクノロジーの投入が継続して行われている.特に,SACLAは,世界初のコンパクトFELとして構想されたこともあって,他施設とは明確に異なるいくつかの特徴を有している.ここでは,その一端を紹介したい.XFEL加速器は,入射部,主加速器部,アンジュレータの3つのセクションから構成される.このうち,入射部は,電子ビームの素性を支配するためきわめて重要である.SACLAの入射部には,他施設で一般的なRFフォトカソード電子銃とは異なり,熱電子銃と多段バンチ圧縮システムの組み合わせが採用されている.結果として,電子バンチの中で限られた時間領域にXFELパルスの発振が集中するようになり,10フェムト秒以下という超短パルス幅で,50 GW以上という高いピークパワーを常時供給することが可能となった.これに対して,LCLSでは,1パルス当たりのフォトン数はSACLAより多いが,パルス幅も数十フェムト秒と長いため,ピークパワーに換算するとSACLAのほうが上回っている.Diffractionbefore-destruction法や,非線形X線光学など,「切れのいい」超短パルスを必要とする実験には有利である.また,アンジュレータに関して,LCLSやFLASHでは,磁極間のギャップが固定されたデバイスが用いられており,波長を変更するにはビームエネルギーを変える必要がある.一方で,SACLAの真空封止アンジュレータは,磁極間のギャップを可変にすることによって,ビームエネルギーを固定したまま,広い範囲にわたって波長を迅速に走査することが可能である.また,全長5 mのアンジュレータが総数で約20台用いられているが,上流セクションと下流セクションのギャップ値を異なる値に設定することにより2色のXFELが生成でき,さらにセクション間のシケインを利用することにより2色のパルスの時間間隔を最大数100フェムト秒まで,サブフェムト秒の精度で制御することが可能である. 18)この2色XFELパルスは,X線ポンプ・X線プローブによる超高速ダイ19ナミクスの探査)10や,非線形X線光学の実験)において強力なツールとなっている.また,わが国は,X線オプティクスの研究開発において,半世紀にわたって優れた成果を上げてきた.XFEL向けの開発でも,世界をリードしている.その1つが,集光ミラーの開発である.今世紀に入って,大阪大学の山内和人教授のグループは,Elastic Emission Machining(EEM)による超精密加工技術に基づくX線集光ミラーを開発し,SPring-8において7 nmという極小ビームサイズを実現した.この技術がSACLAにも活用され,ビームサイズを50 nmまで絞ることにより,世界最高のX線強度10 20 W/cm 2を達成した. 20)この超高強度X線を用いて銅原子を励起することにより,世界初の硬X線原子レーザーが実現された. 10)また,XFELのスペクトルを高分解能かつシングルショットで計測するために,高精度ミラーと結晶分光素子を組み合わせたX線スペクトロメータが開発され, 21)XFELパルス幅の推定22)や,23dispersive型のXFEL吸収分光法)に応用された.さらに,XFELのパルスを光学系で2つに分割し,ディレイ24をつけて再結合する,split-and-delay光学系の開発)が,世界に先駆けて進められている.4日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)