ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

久木一朗2.水素結合性ヘキサゴナルネットワーク構造の積層集合体(LA-H-HexNet)2.1環状水素結合モチーフ:フェニレントライアングル(PhT)カルボン酸2量体を超分子シントンとして用いた多孔性二次元構造の先駆けはトリメシン酸(1)である.R.E.マーシュらが1969年に結晶構造を報告しているが,8)このときはシート構造が途中で折れ曲がり相互貫入した構造であった.1987年にF.H.ヘルベシュタインらはゲスト分子を適切に選ぶことによって多孔性ヘキサゴナルネットワーク構造が相互貫入することなく積層したLA-H-HexNet構造を初めて達成している.9)しかし,例えばトリメシン酸を拡張した1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(2)は,より大きな空孔をもつLA-H-HexNetを形成すると期待されるが,実際には溶媒のDMSO分子と水素結合して所望のハニカム構造とは異なる構造を与えることが報告されており,10)より普遍的な方法論が望まれる(最近,H. W. H.ライによって2のLA-H-HexNetの構築が報告された).11)一方,2000年に小林らは,6回対称性のヘキサキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(3)を用いて,面内に三角状の空孔を有するLA-H-HexNetを達成している.12)われわれは,彼らによって報告された4,4’-ジカルボキシ-o-ターフェニル基による環状水素結合モチーフが水素結合性の多孔性ネットワーク構造を構築するためのカギ構造になると考えた.実際,4,4’-ジカルボキシ-o-ターフェニル基をもつ4や5も,結晶中でこの環状水素結合モチーフを形成することを確認した.13)われわれは,このモチーフをフェニレントライアングル(PhT)と名付け,PhTモチーフと環状パイ共役系分子を組み合わせることによって空孔の形・大きさ・多重度が制御できるLA-H-HexNetを構築するための新しい戦略を提案した(図2).13)すなわち,辺の長さが異なる3回対称性のパイ共役環状構造に4,4’-ジカルボキシ-o-ターフェニル基を組み込んだ分子(C 3PI)は,PhTモチーフを形成してネットワーク化し,複数種の空孔を有するH-HexNetシート構造を与える.比較的複雑な構造のため,ネットワークは相互貫入せずに積層してLA-H-HexNetを与えるというものである.カルボキシ基とパイ共役コアの間にフェニレン基を挿入することは,溶解度の向上や包接空間の創出にも効果がある.14)2.2 LA-H-HexNetの構築と構造解析2.2.1異なるC 3PI分子による同型H-HexNetの形成と積層構造大きさが異なる一連のC 3PI分子(Tp,T12,T18,およびEx)を合成し結晶化を行った.DMF溶液から結晶化させた場合,DMF分子がカルボキシル基と水素結合し,二次元状のネットワーク化が阻害された結晶を与図2 3回対称性のパイ共役化合物(C 3PI)を用いた多孔性ヘキサゴナルネットワーク積層体の構築.(Constructionof porous layered assembly of hexagonal networkscomposed of C 3-symmetric pi-conjugated system.)複数種の空孔(I,II,III)が存在する.えた.一方,DMFに加えて安息香酸メチルや1,2,4-トリクロロベンゼンなどの芳香族分子を貧溶媒として添加し,比較的高温(50~100度)で溶媒を蒸発させることによって,1日から数日のうちに目的のLA-H-HexNetの単結晶(それぞれTp-1,T12-1,T18-1,Ex-1)が得られた.いずれの結晶も単結晶X線構造解析によって構造を決定することができた.すべての場合でPhTモチーフが形成されており,シート内には,I,II,およびIIIで示した2種類あるいは3種類の空孔が存在する(図3a).IはPhTモチーフで構成され,一辺が約11 Aの三角状である.IIの空孔は用いる分子の形状によって異なり,長辺は15.8 A,短辺は2.0 Aから11.4 Aまで変調できる.一般に,分子性結晶はMOFやCOFに比べると同型構造(isostructure)を与えにくいが,本系では分子をPhTモチーフで連結することによってすべての系で同様のH-HexNet構造を得ることができた.さらに,いずれの結晶においてもH-HexNetシートは相互貫入することなく積層している(図3b).隣接する層どうしは反転しており,ひし形の外側の部分が重なるように積層する様式(type-a)とパイ共役環状部分のオーバーラップが大きくなるように積層する様式(type-b)がある(図3c).層のずれ具合はそれぞれの結晶によって異なっている.大きな空孔を有する2D-COFではネットワーク構造が上下で完全に重なったエクリプス構造をもつことが知られているが,本系の場合はより複雑な積層パターンをもつこ210日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)