ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

日本結晶学会誌58,228(2016)「第1回対称性・群論アドバンストトレーニングコース」に参加してDIC㈱分析センター武内尚志2016年8月1日~5日に茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)で開かれた,第1回対称性・群論アドバンストトレーニングコースに参加しました.講義は,過去4回のトレーニング(基礎)コースに参加した希望者を対象に,実践編として復習を含めながら進められました.講師は引き続きフランス国立ロレーヌ大学理学部教授のネスポロマッシモ先生(Prof. MassimoNespolo)をお迎えし,お一人で5日間毎日,朝9:00から18:00近くまで,3回の休憩時間の質問を含め,日本語でお教えいただきました.毎晩20:00頃から遅くまで質問コーナーも開かれ,勉強熱心な参加者は,先生に質問したり,お互いに教えあったり,自分の研究を話し合う仲間を見つけたり,飲んだりお団子を食べたり?しながら和気藹々と有意義な時間をもったようです.私も多くの貴重な仲間を見つけ,学生や研究者の熱意に触れおおいに活性化されたことも収穫の1つです.後半の3日目以降の講義は双晶の話でした.どのような条件のときに双晶が出やすいか,双晶の解析をどのように進めるかという内容で講義が進められました.しかし,私にとって新しい概念や基礎コースの復習不足の事項が多く出てきて,高い対称性の空間群(超群)や,群,部分群,消滅則などの重要な理論を使って進められる講義に理解が及ばなくなりました.今後,講義の資料や先生の論文,そして後述の記事などを読んで,復習したいと思っています.最初は結晶学に関してあまり知識のなかった私が,このコースを知り,飛び付いて申し込み,不安ながらも参加したことを思い返せば,勉強を再開して望んでいた対称性の分類についての知識だけでなく,行列や群論などの代数学を利用する楽しさまでを得られたことは一番の喜びです.講義の概略は,前半が多色群,後半は先生の研究対象の1つである双晶について例を挙げて話され,その流れのなかに群論や対称性の理論を織り込んだ内容でした.また,インターネット上のbilbao crystallographicserverの便利なプログラムも紹介され,各自のPCを使用して結晶の対称性の解析を行うなど,新たな試みもなされました.前半は,基礎コースの復習と,多色対称性に拡張した点群を,基礎コースでも習ったステレオ投影図で解析し,含まれる対称要素を確認する作業などを行いました.これまで習った点群に色置換を導入することによって,投影図が色分けされていく様に,美的感覚が刺激され大変興味深く感じました.というのも,私が対称性に興味をもったのは,以前仕事で粉末や単結晶X線回折を担当した頃にInternational Tables for Crystallographyを見て,点群や空間群の分類分けされた図に,整然とした美しさと理論のうえに成り立った意味深さ(暗号的とでも言うか)を感じたことにあるからです.長い間,どうにかして理解をしようと何冊も書籍を購入しながら,挫折した経緯がありました.最後に,今回のアドバンストコースや過去4回の基礎コースは,国際結晶年(IYCr2014)を機会に,結晶学と直結する対称性や群論の知識を身に付けることを目的に,日本結晶学会および実行委員の発案とご努力により先生の快い承諾を得て開催され,継続されてきたと聞いております.遠くフランスから来られて,日本の結晶学に熱いエールを送ってくださる先生と,このような機会を設けていただいた,実行委員や関係各所の方々に感謝いたします.嬉しいことに,結晶学会誌に講義内容に関係した先生の記事が連載される予定とも聞きました.結晶学に関係する研究者や学生だけでなく,結晶に興味をもたれた多くの方々が,学習により奥深い結晶学を理解する喜びを得られるように願っています.ありがとうございました.http://www.iucr.org/gallery/2016/tsukuba-advanced-course:国際結晶学連合(IUCr)サイトに掲載された,トレーニングコースの雰囲気http://pfwww.kek.jp/trainingcourse/1stAdvanced/:「第1回対称性・群論アドバンストトレーニングコース」のホームページ228日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)