ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

阪本泰光,野中孝昌,鈴木義之,小笠原渉,田中信忠表3各種置換体と活性の関係.(The relationship between substrates and mutations.)基質Gly-Glu-pNAGly-Asp-pNAGly-Phe-pNAAla-Ala-pNA酵素変異体酵素活性(U/mg)PgDPP11WT0.77±0.052.66±0.01--R337A1.6±0.22.58±0.09--R673A----R337A-R673A----R337N3.01±0.084.6±0.1<10-5<10-5R673G0.017±0.0010.0017±0.00040.00038±0.000090.00071±0.00006R337N-R673G0.044±0.0030.0062±0.00160.0180±0.0004DAP BIIWT--3.3±0.19.5±0.2G675R0.028±0.0020.0218±0.00060.0060±0.00450.37±0.01表2ジペプチドによる阻害活性評価.(Inhibitory activityon DAP BII by dipeptide.)(a)(b)ジペプチドIC50(mM)Ki(mM)Val-Tyr0.50±0.020.41±0.02Asp-ArgN. D.N. D.Initial DPP11 Structure (MAD) 2.46A?阻害活性を確認できなかった(表2).10.歯周病菌DPP11の構造歯周病菌由来DPP11は,DAP BIIと同じファミリーであるため,分子置換法での構造決定を試みていたが,成功せず,結果として,セレノメチオニン化DPP11を用いた多波長異常分散法により位相を決定し,2.46 A分解能での構造決定に成功した8)(図6a).DPP11は,DAP BIIと同様に触媒ドメインとαヘリカルドメインから構成される構造をもつものの,そのαヘリカルドメイン中の各ヘリックスの長さがDAP BIIと異なり,全体構造がDAPBIIに比べて歪んでいた.一方,触媒ドメインは,非常によく保存され,ほぼ同じ構造であった.基質などとの共結晶化の試みは成功しなかったが,微小重力下結晶化実験により得られた1.66 A分解能のデータでは結晶化溶液中に含まれるカリウムイオンがS2サブサイトに結合していた(図6b).カリウムイオンとW219のベンゼン環の平面中心までの距離は3.3 Aであり,DAP BIIにおけるW216と基質アミノ末端までの距離は3.8 Aであることから,ともにCation-π相互作用とみなされる距離であった.11)DAPBIIとジペプチド複合体の結晶構造では,P2位の基質アミノ酸とN330,N215,D674による水素結合ネットワークに加えてW216のcation-Pi相互作用によって基質ペプチドの位置が厳密に規定されることによってジペプチド単位で基質が切断されていると考えられたが,DPP11においても,同様の水素結合ネットワークの形成により,ジペプチド単位で基質が切断されることが示唆された.11.DPP11の酸性アミノ酸認識とDAP BII G675R置換体についてDPP11とDAP BIIの基質特異性の違いは,S1ポケットを構成するアミノ酸に起因することがDAP BIIのジペプDPP11Structure(Space)1.66A?図6(a)歯周病菌由来DPP11の全体構造,(b)PgDPP11の推定ペプチド結合部位の電子密度図(2Fo-Fc,2σ).((a)Overall structure of PgDPP11,(b)ElectronDensity map of putative peptide binding site ofPgDPP11.)チド(VY)複合体構造(図5a)とDPP11の結合モデル構造(図5b)から示唆されたが,前述のように,DPP11の構造解析に成功したものの,DPP11と基質などの複合体構造を決定することはできなかった.そのため,DAP BII-VY複合体構造と歯周病菌DPP11-LD複合体モデル構造(図5b)から,DPP11における酸性アミノ酸認識残基をR337とR673であると推定した.それぞれの置換体で合成基質分解活性を測定したところ,主に酸性アミノ酸認識に関与するのはR673であることが推定された(表3).そこで,酸性アミノ酸の認識を模倣すべく,DPP11のR673に相当するDAP BIIのG675をアルギニン残基に置換した置換体を作製し,酸性ジペプチドのLE,LDとの共結晶化を行った.その結果,DAP BII G675RとLEとの複合体の構造解析に成功し,DPP11によるペプチド認識機構と等価とみなせる構造を得た(図5c).そして,この置換体は,実際に酸性アミノ酸を認識し切断する活性を弱いながらも有していた(表3).このように,基質特異性の異なる2つのS46ファミリーのDPPの構造解析から,S46ファミリーDPPのS1サブサイトにおける基質認識機構の一端を明らかにした(図5d).226日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)