ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

糖非発酵グラム陰性細菌由来新規ジペプチド産生酵素の構造と機能(a)(b)(c)D674S657D672S655D674S657N215(d)N330G675Val-TyrW216S679CαTyr P1CαG675G673OOCαS679S677 PmDAP BIISmDPP7CαG677G674Asp P1ONNN218ONCαPgDPP11PeDPP11N333CαR673R670Leu-AspW219P1PheCαChymotrypsinR673G677R337CαG216N215NP1ArgNN330NTrypsinLeu-Glu図5(a)PmDAPBIIとVal-Tyr複合体(PDBID:3WOL),(b)PgDPP11とLeu-Arg複合体(model),(c)PmDAPBIIとLeu-Glu複合体(PDBID:4Y06),(d)基質ポケット(S1)における結合様式.((a)PmDAPBIIwithVal-Tyr,(b)PgDPP11 with Leu-Asp,(c)PmDAP BII(G675R)with Leu-Glu,(d)Substrate binding mode of S1 subsite.)W216CαCαG216CαAsp189S679R675N330A置換体とジペプチドの共結晶から決定した構造はいずれもオープン型となり,ジペプチドの結合も見られなかった.このN330を介した水素結合ネットワークは,単に開閉に関与するだけではなく,DAP BIIがN末端側から2番目と3番目の残基間のペプチド結合を厳密に切断する機構への関与も示唆された.すなわち,DAPBIIは,N215,N330,D674で構成される水素結合ネットワークにより,基質ペプチドのN末端のアミノ基とカルボニル基を固定し,N末端の先端をW216によりブロックする.このように,厳密にアミノ末端側の主鎖の位置が決定され,S1ポケットに基質ペプチドのP1側鎖が入り込むことによって,基質ペプチドの切断箇所であるP1とP1’の間のペプチド結合の位置が触媒残基のセリンとオキシアニオンホールの位置へと立体的に規定され,ジペプチド単位での厳密な切断機構が成り立っている.筆者らは,触媒ドメインとヘリカルドメインによりつくられる大きな空洞にどの程度の大きさのペプチドまで収容できるか確認するため,触媒3残基をアラニンとしたDAP BII-HDSを作製し,さまざまな長さのペプチドとの共結晶化を行った.その結果,オクタペプチドとの共結晶化と構造解析に成功した.そして,ドメイン間の空間に入りきらないほどの大きなペプチドでは,触媒ドメインとヘリカルドメインは完全に閉じることができず前述の水素結合ネットワークの形成も妨げられることから,基質P1のカルボニル基が活性中心に位置するように配置できず,切断されにくいことが示唆された.9.DAP BIIの基質特異性についてDAP BIIは芳香族と塩基性アミノ酸の両方,キモトリプシンは芳香族アミノ酸,トリプシンは塩基性アミノ酸を認識する.われわれは,DAP BIIのS1ポケットが塩基性と芳香族アミノ酸を認識する点で塩基性アミノ酸を日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)表1共結晶化したペプチドと得られた結晶構造.(Thelist of ligand and actually obtained structures.)DAP BII共結晶化結晶構造1野生型DAP BIIVYVY2野生型DAP BIIDRVYIHPFVY3野生型DAP BIIVYIHPFVY4DAP BII HDSVYIHPFVYIHPF5DAP BII HDSDRVYIHPFDRVYIHPF認識するトリプシンや疎水性アミノ酸を認識するキモトリプシンと類似しているのではないかと推定していたが,実際には,トリプシンのように酸性アミノ酸が塩基性アミノ酸の認識に関与するのではなく,主として疎水性側鎖で構成されたS1ポケットの底にセリンがあるのみであった(図5a).そのため,芳香族アミノ酸よりも塩基性アミノ酸の結合が弱いことが示唆され,その後に得られた結晶構造と阻害活性からもその点を追認することができた.野生型では,野生型DAP BIIとDRVYIHPFの共結晶から得られた複合体に結合していたジペプチドは,VYであり,切断されたオクタペプチド中のVYがその後にあるDR,IH,PFよりも結合が強いためVYとの複合体構造が得られたことが示唆された.VYが共結晶化した際の不純物などでないことを確認するため,触媒残基すべてをアラニンへと置換したDAPBII-HDSとDRVYIHPFおよびVYIHPFとの共結晶化を実施した.その結果,DAP BII-HDSはこれらのペプチドと切断されていない状態で複合体を形成していたことから,2のVYは,不純物として含まれたものなどではなく,DRVYIHPFがDAP BIIにより切断されて生成したものと確認できた(表1).そして,結晶構造でVYが保持されていることから,VYの阻害活性について確認したところ非常に弱いながらも阻害活性があることが確認できた.一方,DRでは225