ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

阪本泰光,野中孝昌,鈴木義之,小笠原渉,田中信忠の構造の中間状態にあると想定し,2つのモデルから中間状態の座標を生成するPyMOLのRigimol機能により,前述の閉じた構造と開いた構造からmorph座標を10個生成し,それぞれの座標で分子置換を実行した.その結果,中間よりも少し開いた構造で分子置換法による構造決定に成功した(図2b,図3b).その後,UCSF Chimeraのmorph機能で生成した座標でも構造決定できることを確認した.このようにして得られた3状態(開いた構造,半分開いた構造,閉じた構造)のDAP BIIの構造(図3a~c)を触媒ドメインのみで重ね合わせ,その距離を比較した.その結果,開いた構造の開口部付近の距離変化が顕著で,A98とA315間の距離は18 Aだったが,閉じた構造では4Aにまで接近し,DAP BIIの触媒ドメインとヘリカルドメイン間は容易に開閉しうることが示唆された(図3d).6.DAP BII,DPP11の触媒ドメインについてDAP BIIは,キモトリプシンと同じClan PAに属し,類似の触媒ドメインをもつことが示唆されていたが,キモトリプシンの分子量は25 kDa,触媒残基はH57,D102,S195であるのに,DAP BIIの分子量は79 kDaで推定触媒残基はH86,D224,S657と分子量も触媒残基の配置も大きく異なっていた.構造解析によって,DAP BIIの触媒ドメインはキモトリプシン様のダブルβバレル構造を有し,触媒ドメインのC末側βバレルは,挿入されたヘリカルドメインにより分断され,S657はH86やD224から一次構造上でC末端側に離れて配置されているものの,同じ触媒ドメイン中に存在していた(図4a).キモトリプシンとDAP BIIの触媒ドメインのアミノ酸配列相同性は約15%と非常に低いものの,構造の重ね合わせによるRMSDは1.1 A(49 Cα)で,触媒3残基の位置は保存されていた(図4b).また,反応機構にかかわるオキシアニオンホール構造もキモトリプシンと同様に存在し,S46ファ(a)S46(b)触媒残基の配置H86H85ChymotrypsinTrypsinD224D227N-terminaldomainHelical domainH57 D102S195上: DAP BII,下:DPP11S657S655C-terminaldomainChymotrypsin PmDAP BII PgDPP11図4(a)触媒残基の配置と触媒ドメイン(N-terminalドメインとC-Terminalドメインを合わせたもの)の分布,(b)触媒ドメインの構造.((a)Distribution ofCatalytic domains and Position of Catalytic residues,(b)Structures of Catalytic domains.)ミリーの反応機構はキモトリプシンファミリーの酵素と同様であると示唆された.その後,構造解析に成功したDPP11の触媒ドメイン(DAP BIIとのアミノ酸配列相同性39.9%,全体は29%)との重ね合わせでは,RMSDは0.93 A(310 Cα)となり,より類似した構造であった.また,触媒ドメインを構成するアミノ酸数は,キモトリプシンが245残基,DAP BIIでは395残基,DPP11では397残基と大きく異なり,この違いは主に触媒ドメイン周囲のヘリックスがキモトリプシンでは3本であるのに対して,DAP BIIでは16本,DPP11では19本であることに起因することが示唆された.分子進化の観点から,DAP BIIのサブユニットは,キモトリプシン様フォールドにヘリカルドメインが後から挿入され生じたものなのか,収束進化の結果としてキモトリプシンと同様の触媒ドメインを構成することとなったのかは,現時点では不明である.7.ヘリカルドメインについてダブルβバレル構造からなる触媒ドメインのC末側バレルに挿入されたDAP BIIのヘリカルドメインは,われわれの知る限りほかのペプチダーゼでは見られない構造だった.そのため,類似構造を検索するDaliサーバーで類似構造を検索したが相同性のある構造はなく,まったく新規の構造であることが示唆された.DAP BIIのヘリカルドメインは,14本のαヘリックスにより構成され,中空の半球状である.一方,DPP11のヘリカルドメインは,16本のαヘリックスにより構成されているが,DAPBIIとは異なり中空の半球の一部が開いたいびつな形状をしている.内部の表面電荷の状況はかなり異なっていて,DAP BIIでは電荷の偏りが見られないが,DPP11では多くの塩基性のアミノ酸が半球状の中空部の表面に露出し,プラスの電荷を帯びている.現時点では想像でしかないが,DPP11は酸性アミノ酸を認識することから静電的に酸性アミノ酸を含むペプチドを活性中心へと誘引すべく,ヘリカルドメインの内側がプラスの電荷を帯びているのかもしれない.8.DAP BIIの構造変化とペプチド切断機構アポ型DAP BIIの異なる空間群をもつ結晶から閉じた構造,開いた構造,半分開いた構造の3状態の構造が得られたが,DAP BIIと基質などとの複合体では,すべて閉じた構造が得られ,DAP BIIは誘導適合によりパックマンのように開閉することが示唆された.開閉には,ヘリカルドメインと触媒ドメインが近づく必要がある.この開閉は,ヘリカルドメイン側に属するN330が基質を介して触媒ドメインに属するN215,D674と水素結合ネットワークを形成して基質の切断に関与することで生じると示唆され(図5a),N330をアラニンにした置換体(N330A)ではペプチド分解活性が低下した.また,224日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)