ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

糖非発酵グラム陰性細菌由来新規ジペプチド産生酵素の構造と機能かった.そこで,DAP BIIの推定触媒残基(H86,D224,S657)をアラニンへと置換した複数の置換体(H86A,D224A,S657A,三重アラニン置換体)を作製し,さらに阻害剤を加えて結晶化条件の探索を行った.その結果,阻害剤である塩化亜鉛を加えた条件で,D224A置換体から6 A分解能程度,S657A置換体では3 A分解能程度の回折能を示す結晶がようやく得られた.次に,SADまたはMAD法による構造解析を目指し,セレノメチオニン化DAPBII(S657A)で再度結晶化スクリーニングを実施したところ,これまでとまったく異なる形状の結晶が得られた.そして,この結晶から2.2 AでのSADデータ収集に成功し,SHARP/autoSHARPによる位相決定,モデル構築,Refmac5による精密化を経てPmDAP BIIの構造決定に成功した.DAP BIIアポ体の結晶では,それ以上の分解能の向上が見られなかったことから,宇宙航空研究開発機構の高品質タンパク質結晶生成プロジェクト(JAXA-PCG)制度を活用し,微小重力下でカウンターディフュージョン法による結晶化実験を国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟にて実施したところ,薄板状の結晶であったにもかかわらず,1.95 A分解能の回折強度データの収集に成功した.その後,野生型の結晶化にも成功したが,この結晶は,雲母のように薄板状の結晶が何層にも重なっていた.この結晶からデータセットを収集するために,ピペットチップの先端に先が細くなった先端をもつ歯ブラシのブラシを切断して接着し,層状になった結晶の隙間に横から滑り込ませ分離し,データセットの収集に成功した.最終的に野生型および触媒残基三重置換体と各種ペプチドの共結晶からデータを収集し,各種ペプチド複合体の構造解析にも成功している.5.DAP BIIの全体構造についてSAD法により明らかにした構造から,空間群P4 32 12の結晶の非対称単位中にはDAP BIIが2分子存在し,DAPBIIは主としてダブルβバレル構造からなる触媒ドメイン(25-276,574-722)とαヘリックスのみで構成されるヘリカルドメイン(277-573)の2つのドメインで構成されることを明らかにした.しかしながら,非対称単位中の2分子のDAP BIIにおいて,一方のサブユニットはドメイン同士が近接し球状となった構造,もう一方のサブユニットは触媒ドメインとαヘリカルドメインのそれぞれの片側をヒンジとしたパックマンの口が開いたような構造の2つの異なるコンフォメーションをとっていた.また,閉じたほうの分子も開いたほうの分子も,結晶学的2回軸で対称付けられる隣接する分子のβヘアピン(DAP BII:589-597,DPP11:587-595)同士により形成される分子間βシートによって2量体を形成していた.微小重力下結晶化実験で得られた結晶は,上記とほとんど同じ条件で結晶化したものの,異なる空間群(P2 12 12 1)を有していた.微小重力下結晶の回折強度データを用いてSAD法で得られた2つの状態の構造をモデルにして,分子置換法での解析をさまざまな分子置換ソフトウェア(molrep,Phaser,Phenix)で試みたが,触媒ドメインの部分のモデルしか構築できなかったため,触媒ドメインを固定しαヘリカルドメインを分離して探索を試みたが成功しなかった(図2a).そこで,微小重力下の結晶構造におけるドメイン間相対配置は,SAD法による2つ(a)(b)図2(a)Morphingモデル適用前の2Fo-Fcマップ,(b)Rigimol使用後の2Fo-Fcマップ.((a)2Fo-Fc electron density map of initial model,(b)2Fo-Fcelectron density maps of final model.)(a) (b) (c)(d)4.0A?A9818.0A?A315図3(a)DAPBIIの開いた構造,(b)DAPBIIの半開き構造,(c)DAPBIIの開いた構造(橙),半開き構造(薄青),閉じた構造(緑)の重ね合わせ,(d)A315とA98間の距離の変化.((a)OpenmodelofDAPBII,(b)SemiclosedmodelofDAP BII,(c)Superpose of Structures of DAP BII,(d)Comparison of distances between the A98 and the A315.)(a)空間群P4 32 12上部が触媒ドメイン,下部がヘリカルドメイン(緑色).(b)空間群P2 12 12 1.上部が触媒ドメイン,下部がヘリカルドメイン(緑色).編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)223