ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

ページ
20/52

このページは 日本結晶学会誌Vol58No5 の電子ブックに掲載されている20ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No5

阪本泰光,野中孝昌,鈴木義之,小笠原渉,田中信忠(a)糖非発酵グラム陰性細菌(b)POP, PTP?ADPP4物にしか存在しないことから,抗菌薬の標的分子として適していると考えられる.また,それらの酵素群は微生物のペプチド代謝のみならず,薬剤吸収機構にも関与す細胞膜の構造細菌内プロテアーゼDPP細菌外POTアミノペプチダーゼ外膜ペリプラズム内膜DAP BII(DPP7)DPP11プロリン酸性アミノ酸疎水性・塩基性アミノ酸タンパク質やペプチドオリゴペプチド(アミノ酸が10個程度繋がったもの)ジペプチド(アミノ酸が2個繋がったもの)アミノ酸ると考えられている.5)2014年から2015年にかけて,筆者らは,基質特異性の異なるS46ファミリーのDPPであり,P1位が疎水性・塩基性のペプチドを認識するDAPBII(DPP7)と酸性アミノ酸を認識するDPP11のX線結晶構造解析に,それぞれ成功した.7),8)本稿では,それらの立体構造から得られた知見について紹介する.3.S46ファミリーについて図1(a)糖非発酵グラム陰性細菌における細菌内へのペプチド取り込み機構(推定),(b)糖非発酵グラム陰性細菌におけるDPP群とその基質特異性.((a)DPPs play an important part in peptide intake,(b)Substrate specificity of DPPs in NFGNR.)(DAP BII(DPP7),DPP11)の2つのファミリーに大別される.5)Clan PA S9ファミリーに属する微生物のDPP4やPTPの立体構造的特徴は,制御ドメインであるβプロペラドメインとαβαサンドウィッチ(あるいはα/βヒドロラーゼ)構造をもつ触媒ドメインを有することで,原核生物から高等生物に至るまでその基本構造が保存されている.また,ヒトDPP4は,糖尿病薬の標的分子やT細胞の表面分子のCD26としても知られている.これら,Clan SC S9ファミリーの酵素の構造生物学的研究については,生化学誌の2009年の総説である“ペプチド最終分解系に関与するエキソペプチダーゼの構造と機能”に詳細が掲載され,ペプチド分解最終系に関与するエキソペプチダーゼは主にS9ファミリーであると考えられていた.6)残りの2タイプが属するS46ファミリーは,2001年にペプチダーゼデータベース(MEROPS)に登録された微生物にのみ存在する比較的新しいファミリーである(S9ファミリーの登録は1983年).S46ファミリーは疎水性・塩基性アミノ酸認識タイプ(DAP BII(1996年),DPP7(2001年))と酸性アミノ酸認識タイプ(DPP11(2012年))の2つに分類される.歯周病菌では,DPP7遺伝子欠損株での増殖能の低下やDPP11遺伝子欠損株での増殖能の低下と短鎖脂肪酸の生成抑制が生じることも明らかにされ,5)糖非発酵性グラム陰性細菌のペプチド代謝系において,Clan SC S9ファミリーとともに,Clan PA S46ファミリーが,ペプチドを内膜での選択的輸送に適したジペプチドへと変換していると考えられる(図1b).微生物ペプチド代謝系において,POTもDPPも重要な役割を果たすが,POTとClan SC S9ファミリーのDPPは原核生物から高等生物まで基本構造が保存されているため,それらを標的分子とした化合物にはより厳密な選択性が要求される.一方,Clan PA S46ファミリーのDPPは,微生小笠原らは,微生物のジペプチド産生機能の解明とその応用を目指し,1996年に豆腐工場の廃液からその糸口となる高ジペプチド産生菌であるPseudoxanthomonasmexicana WO24を発見した.この菌からジペプチド産生に関与する酵素であるDAP BI,BII,BIII,IV,POPという5種類のDPPを同定した.これらの酵素のうち,PmDAP BII以外は,Clan SC S9ファミリーに属するDPPであったが,DAP BIIは,その時点でどのファミリーにも属さないまったく新規のペプチダーゼであった.9)その後,2001年にジョージア大のBanbulaらが歯周病菌P. gingivalisからDAP BIIと似た基質特異性をもつDPP7(PgDPP7)を発見し,DPP7はMEROPSにClan PA S46ファミリーとして登録された.その後,2008年に岩手医大の原賀らが歯周病菌Porphyromonas endodontalis由来DPP11(PeDPP11),2011年に長崎大の根本らが歯周病菌P. gingivalis由来DPP11(PgDPP11)を発見し,現在では多剤耐性菌Stenotrophomonas maltophiliaなどを含む糖非発酵グラム陰性細菌を中心に,2016年の4月時点で1054個のS46ファミリーDPPが登録されている.10)これらのDPPはエキソペプチダーゼであるが,触媒残基の種類と順番(His,Asp,Ser)などからエンドペプチダーゼであるキモトリプシンと同じClan PAに分類され,キモトリプシンフォールドと呼ばれる200残基程度で構成される触媒ドメインをもつと考えられていた.しかしながら,S46ファミリーの触媒残基であるAspとSer間は約400残基も離れていることから,S46ファミリーの触媒ドメインが実際にキモトリプシンフォールドを有するのかは構造解析されるまで不明だった.4.Pseudoxanthomonas mexicana WO24 DAPBIIの結晶化について研究開始当初は,凍結乾燥のPmDAP BIIで結晶化条件探索を試みていたためか結晶がなかなか得られなかったが,溶液状態で結晶化を行うようになってから10 A以下の低分解能ながらもDAP BIIの結晶を得られるようになった.その後,結晶化条件の最適化やシーディングなどを試みたものの劇的な回折能の改善には繋がらな222日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)