ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

日本結晶学会誌58,221-227(2016)最近の研究から糖非発酵グラム陰性細菌由来新規ジペプチド産生酵素の構造と機能岩手医科大学薬学部阪本泰光,野中孝昌長岡技術科学大学生物機能工学鈴木義之,小笠原渉昭和大学薬学部,昭和大学分子分析センター田中信忠Yasumitsu SAKAMOTO, Yoshiyuki SUZUKI, Takamasa NONAKA, WataruOGASAWARA and Nobutada TANAKA: Structural and Functional Studies ofDipeptidyl Aminopeptidase from Non-Fermenting Gram-Negative RodsThe morbidity of periodontal disease is reported to be 50%above in population worldwide. SomeNon-Fermenting Gram-Negative Rods(NFGNR), such as Porphyromonas gingivalis, may causeperiodontal disease. NFGNR is well known for utilizing peptides or proteins as energy and carbonsources instead of carbohydrates. DPPs(Dipeptidyl aminopeptidase)are peptide degradation enzymesthat play a key part in the absorption of peptides. Bacterial DPPs are divided into two families(Clan SC S9, Clan PA S46). Interestingly, DPPs of Clan PA S46 are only found in bacteria. Ourcrystallographic studies of Pseudoxanthomonas mexicana WO24 DAP BII and P. gingivalis DPP11revealed the catalytic and substrate recognition mechanisms of the S46 peptidases.1.はじめに糖非発酵グラム陰性細菌は,大腸菌のように主に糖や炭水化物からエネルギーを得るのではなく,タンパク質やペプチドからエネルギーを得る細菌である.また,枯草菌やブドウ球菌をはじめとするグラム陽性菌の細胞壁が厚いペプチドグリカン層をもつ一方で,大腸菌をはじめとするグラム陰性菌の細胞壁は脂質で構成される外膜と内膜に挟まれた薄いペプチドグリカン層をもつ.そして,グラム陰性菌は外膜により薬剤が浸透しにくく,グラム陽性菌よりも薬剤抵抗性が高いことが知られ,多剤1耐性菌)や歯周病原菌の多くは,上記のような性質を併せもつ糖非発酵グラム陰性菌である.近年,問題となっている多剤耐性菌の出現は,水産・畜産業での抗菌薬利用や抗菌薬を必要としない疾患への不適切な抗菌薬使用により加速されている.細菌感染症による抗菌薬治療には,さまざまな病原菌に効果のある広域抗菌薬と一部の病原菌にのみ効果がある狭域抗菌薬があるが,広域抗菌薬の長期投与は疾患起因菌以外の耐性菌の増加を誘導し,その後の治療が困難となる場合がある(大阪大学病院感染制御部ガイドライン2015).そのような点から,狭域抗菌薬の開発は,多剤耐性菌の出現・蔓延を防ぎ広域抗菌薬の寿命を延ばす効果と,ほかの抗菌薬による治療が困難な感染症の対策として大変重要である.最近,筆者らは糖非発酵グラム陰性細菌の生育や増殖に重要かつ特有で基質特異性の異なるジペプチド産生酵素の日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)構造解析に成功した.本稿では,これらの酵素の構造解析により明らかになりつつある糖非発酵グラム陰性細菌のジペプチド産生機構の一端を紹介する.2.糖非発酵性グラム陰性細菌のペプチド分解とジペプチド輸送グラム陰性菌の内膜では,原核生物から高等生物まで広く保存されているペプチドトランスポーター(POT:Proton-dependent Oligopeptide Transporter)がアミノ酸ではなくトリペプチドやジペプチドを選択的に輸送する(図1a).このPOTの基質特異性は広く,さまざまな種類のジペプチドを輸送するが,P1に疎水性あるいは塩基性アミノ酸,P2に疎水性アミノ酸をもつジペプチドを輸送しやすいことが知られている.また,2013年には東京大学の濡木教授のグループによりジペプチドアナログとの複合体構造が解かれている.2)そして,ペリプラズムにおいて,内膜を透過しやすいようにペプチドをジペプチドあるいはトリペプチド単位に分解するDPP(dipeptidylpeptidase)群が,糖非発酵グラム陰性細菌の生育や増殖に重要であることが,病原菌DPP遺伝子欠失株による研3究)やジペプチド取り込み能に関する研究から示されつつある.4)ペリプラズム中の微生物DPPは,MEROPS(プロテアーゼデータベースの分類)で主にプロリンを認識するClan SC S9ファミリー(DPP4,DPP5やPTP(プロリルトリペプチジルペプチダーゼ))と疎水性・塩基性アミノ酸や酸性アミノ酸を認識するClan PA S46ファミリー221